『氷菓』 | 日々の雑記
『氷菓』

『氷菓』

『氷菓』米澤穂信・著 角川文庫 2001年

著者の作品では『さよなら妖精』『折れた竜骨』『満願』を読んでいて、デビュー作であり有名なこの作品は、気になりながらも未読だった。

やっぱりもっと前に読んでおくべきだったか。わたしの年齢のせいか、文章が読みにくく意味が読み取れない部分があり、最初はノレなくてこまった。登場人物もあまり魅力的に感じられなくて、これは作者がまだ書き慣れてないせいかなと思った。先に読んだ作品たちはそんなこと感じなかったので。

だが読み終わってからじわじわと来た。主人公たちより千反田の伯父関谷純の方に気持ちが入ってしまったのだ。彼とわたしはほぼ同世代(たぶんわたしは3歳下)なので、彼の時代の高校生活が自分に重なって懐かしさと切なさでいっぱいになってしまった。世相は学生運動真っ盛り、やんちゃな高校生たちの暴走もわかる。
何よりわたしの高一の12月に一部学生により校舎の3階が占拠される事件が起きた。授業はなく連日体育館での全校生徒と学校側との話し合い、教室での生徒同士の話し合いが続いていた。有志によるハンストも行われていた。一時学校側と同意して授業再開が決まったのに、一部の生徒が合意内容を不服として校舎の占拠が続いた。どれだけ続いたのか今ではもうはっきり覚えていない。
あの後カリキュラムの見直しがあり、新年度から授業内容が変わった。あの時誰か処分されたという話は聞かなかった。あれだけの騒ぎがあり、学校の評判がかなり悪くなった(あとで知ったことだが)のに、何の処分もなかったのだろうか。

それに比べると関谷純のことは「貧乏くじ」で片付けていいものか。見過ごせない大事を起こしてしまったため、どうしても処罰は行われてしまったけど、それをただ彼ひとりに負わせてしまった生徒たちの心情は、誰も追及しなかったのだろうか。皆自分が可愛いから仕方ないのか。千反田がつぶやいた(と折木が感じ取った)「ひどい」「むごい」ことだと思う。
千反田が彼のことを「伯父の最終学歴は中卒」と言ったのがきつい。では彼はその後学校へは行かなかったのか。就職は?どういう生活を送っていたのか。姪である千反田は彼を慕っていたけど、家族内での彼の立場はどうなったのか。彼のその後は生きたまま死んでいるようなものだったのか。誰も彼のその後を思いやらなかったのか。当時の仲間たちはあえて考えようとしなかったのか、見て見ぬふりをしたのか。
考えれば考えるほど胸が苦しくなる。行方不明になりもう7年。家族はけじめとして葬儀を執りおこなう。社会的には死者として扱われる。でもそうやってしがらみを断ち切ってから、これからが彼が本当に生きていけるのかもしれない。せめてそう思いたい。

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