『星の花」

『星の花」

『星の花』
濱野京子・著 静山社 2025年

きれいなタイトル、表紙の絵から素敵なファンタジーかと思ったら、とても重いテーマを持った作品だった。
架空の国の話ではあるが、今、あるいは過去の、現実にこの世界で起こっている話を想起させる。二つの国の攻防、人種差別、移民問題、危うい宗教問題、過去の凄惨な行為、その過ちの封印と解除。重いテーマだが、優しい語り口で描かれる美しい風景と、歴史の真実を知り、その負の歴史を風化させぬよう尽くす人々の姿に魅了される。国に翻弄されながらも精一杯生き抜く家族、母と娘の物語でもあった。

表紙カバーの袖と第三部のはじめに書かれた文章が心に響く。

「…自らの過ちに目をふさぐ者は同じ過ちを繰り返すという歴史の教訓を忘れることなく、我らが犯した過ちを子々孫々に語り継ぐために、その事実をここに刻むこととする」

これは作品中のある村の宣言ではあるが、全ての国全ての人にとって大切なこと。語り継いでいくことは、わたしたちの責任と義務なのだ。

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