『アンナ・コムネナ』いろいろ思うこと

『アンナ・コムネナ』いろいろ思うこと

『アンナ•コムネナ』6巻のアクスークが先帝アレクシオスを残酷だと批判する独白。
ーヨハネスに期待しながらアンナの野心を否定せず、曖昧な態度で2人を苦しめたー
そう、そうなのよ!全てはそこ!
彼にとって長子であり美しく聡明なアンナはそれはもう可愛くて仕方なかったろう。アンナもファザコン全開で慕ってくるし。人々も認める天才ぶり、その的確な提言も頼もしかったろう。しかしこの時代、皇帝は男子と決まっている。皇位継承権は最初から弟ヨハネスにある。そこをアンナにも周囲にも、もっとしっかり知らしめておかなくてはならなかった。もちろんこの時代の常識としては当たり前のことなので、殊更言うこともないと思ったのだろうが。また優秀なアンナと競わせた方が、ヨハネスの帝王教育のためになると思ったのかもしれない。この思惑がうまくいけば、2人で切磋琢磨して成長し、アンナはいずれ皇帝ヨハネスを支える優れた参謀役となる。アンナに期待したのはそれだろう。
だがあまりに優秀なのと周囲もそれを認めている環境の中、アンナは自分こそが皇帝に相応しい能力をもっていると疑わず、いつかきっと父にも認めさせるとさらに研鑚に励む。凄まじい自己肯定感。それは権勢欲ではない、男だから女だからと役割を決めつけられることへの怒りと、必ずそれを正してみせるという使命感であったと思う。
ヨハネスにしてみれば、常に自分の先を行く(年齢的に仕方ない)アンナと比べられ、アンナからは面と向かって「自分こそ皇帝に相応しい!」とマウント取られ続け、屈折するのも無理はない。6巻の終盤、アンナは妹エウドキアにヨハネスのことを「生まれてからずっと姉と比べられ、最も優れた者でなくてはという重圧の中にいたから、お姉様が輝くたびに傷ついていたのでは」と指摘される。見えていなかったものにようやく気づくアンナ。
このエウドキアも夫のDVの犠牲者だった過去がある。こういう、男性に軽んじられる女性の地位を上げたいという思いもアンナにはあった。だからこそ皇帝になりたかった。自分のためだけでは決してない。
5巻に「お前が男であればなあ…」と父皇帝がアンナに言う場面があるが、あちゃー、治世の終盤にきてまだそれ言うか?アンナにとってもヨハネスにとってもなんと残酷な言葉だろう。だから皇帝崩御後のいわば騙し打ちのようなヨハネスの即位は、起こるべくして起こったことだ。あの世で反省しなさいアレクシオス1世。

『緋色の皇女アンナ』で修道院での囚人のようなアンナの生活を見ていたので、クーデター失敗後どんな惨めな環境に置かれるかと心配していたのだけど、このアンナさまは修道院でも優雅で変わらぬ生活を送っていたのでホッとした。ヨハネスとも長い確執を超え、互いに相手を正しく理解できるようになり、和解できて本当によかった。
望んだ皇帝にはなれなかったけれど、学問への情熱は衰えず、書くことで自分の戦いを続けた。
「言葉は心を運ぶ容れ物になる これからアンナの魂と出会う人びとが この短い人生で成し遂げられなかった事々をきっと成し遂げる これがアンナの戦い方」

アンナの著書『アレクシアス(アレクシオス1世伝)』は、ビザンツの歴史文学として最高傑作とみなされている、という。
アンナさま!!

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