『ぼくの中にある光』

『ぼくの中にある光』

『ぼくの中にある光』
カチャ・ベーレン・著 原田勝・訳 岩波書店 2024年


嵐のような心を持て余す活動的なゾフィア。暗い所が怖く大きな音に怯えて引きこもりがちなトム。同じ11歳でそれぞれ父親母親のひとり親家庭。親同士が再婚して同居するようになった2人の戸惑い、なかなか縮まらない距離。交互に語られるこの2人の独白で物語は進んでいく。
独白は断片的に語られ、日常生活を淡々と追っていく。断片がだんだん形になってきて徐々に2人の内面がわかってくる。トムの事情は父親からのDVがトラウマになっていて、読んでて辛い。母親に心配かけたくなくて話せないのが余計に。これは誰か気づいてあげてカウンセリングが必要な案件だと思う。
親の再婚で急きょ同居が決まり、少しずつ進んでいた事態が一気に進む。この再婚少し急ぎすぎ。その急ぐ原因が母親の妊娠とは。親といっても1人の人間だから自分の幸せを考えるなとは言わない。でももう少し子どもに気を配ってほしい。(以前読んだ『今にヘレンがくる』の親たちはそれはもう勝手だった。自分の仕事で頭がいっぱいで、すべてをこどもにおしつけるひどい親だった。この作品ではそこまでひどくないけど)案の定2人はなかなかこの変化を受け入れられない。
ただこの強引とも思える同居が意外にも効果が出てくる。トムはゾフィアの仲間たちが自然体で接してくれるので、少しずつ心がほどけていく。また父親の提案で、2人が一緒にボートを作っていく過程でだんだん打ち解けてくるのはよかった。そんなことで解決はかろうとするなんて、と最初は醒めた気持ちで読んでいたが、確かに体を動かして何かを作りだす、その没入感や達成感は心を素直にしてくれるだろう。これらのことは引きこもっていたトムの方により変化をもたらしていくが、その分ゾフィアの鬱屈がたまっていく。
ゾフィアとトムが自分たちのことをお互いに打ち明けあい、心が寄り添えたと思える瞬間があった。でもそのひとときが過ぎるとまた壁が出来て離れてしまった。この部分はとてもリアル。何かの拍子に素直になれる時があり、その後猛烈にそのことを後悔することってある。それを的確に表現してあり、とてもうまいなあと感心した。
クライマックスの海のシーンはすごい迫力で、ゾフィアとトムの心の嵐がそのまま海の中に吹き荒れたようだった。

子どもの誕生と病気の判明と回復。これですべてが解決するのは安直に思えるけど、赤ちゃんの誕生はやはりドラマチックだし、命の尊さを感じさせてくれる。トムにも親切なカウンセラーがついてくれてようやく安心した。家族で迎える海辺のラストシーンはとてもよかった。

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