『ナイチンゲールが歌ってる』 | 日々の雑記
『ナイチンゲールが歌ってる』

『ナイチンゲールが歌ってる』

『ナイチンゲールが歌ってる』ルーマー・ゴッデン・作 脇 明子・訳 網中いづる・絵 岩波少年文庫 2023年

以前偕成社から『トゥシューズ』というタイトルで出版されていた作品。
その時読んだはずなのに、苦しい生活の中バレリーナを目指す少女の物語、ということしか覚えていなかった。いろいろな要素がいっぱいつまっていて、王道少女漫画や連続ドラマを見ているようにハラハラしながら楽しめた。詰め込みすぎかなと思うところもあるけど、最後に大団円を迎えるあたり、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの、収集つかないほど広がった話が最後にシュッと収束するさまに似ている。あれほど疲れないけど(あまりに疲れるのでダイアナの作品は少し敬遠するようになったほど)。

バレエについては山岸凉子の漫画でしか知らないけれど、授業の場面などは漫画のシーンを思い浮かべて楽しめた。技術的なことなどは解説がついていてとても親切。王立バレエ学校のオーディションではミュージカル「ビリー・エリオット」のことも思い出した。

ラストでロッティが王立学院前に教わっていた恩師の言葉として「ナイチンゲールをきくのよ、とおっしゃいました」と言う。これがタイトルになっているのだけど、ちょっと抽象的すぎて戸惑う。考えてみた。容姿や才能や生活環境は生まれついたもので変えられない。技術は努力である程度身につけられる。その他に心を豊かにしてくれるものに多くふれなさいと言ってるのではないか。それは決してきらびやかな贅沢なものではなく、ロッティを支えてくれるもの。貧しい中で精一杯の愛情を注いでくれる伯母、隣人、厳しくも暖かく教え導く教師、栄養ある食事を提供してくれる学校の調理師など。自分を支えて愛してくれる人たちへの感謝を忘れず、また自分も相手の支えとなるよう勤めること。それらが自分の糧となり、たしかな技術と相まってバレリーナとしての自分を形作ってくれる。
同級生のアイリーンは裕福な家庭、美しい容姿、才能に恵まれていたけれど、基礎練習をおろそかにし、人の好意を無にする。彼女はナイチンゲールを聞こうとしなかったのだ。

しかしこの「ナイチンゲールを聞く」という言い方は英米では一般的なものなのだろうか。調べたらわかるのかもしれないが、とても素敵な言い方だと思った。

バレエ学校の舞台の演目「王女の誕生日」はオスカー・ワイルドの原作。そういえば聞いたことあるお話だった。そしてそのアイデアの元となったのが訳者あとがきによると、ベラスケスの絵画「ラス・メニーナス」だということで驚いた。ちょうど先月の読書会で『ベラスケスの十字の謎』という作品を取り上げたばかりだったので。ここでもまた本のつながりを感じた。

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