『杉森くんを殺すには』ー『りぼんちゃん』からの連想

『杉森くんを殺すには』ー『りぼんちゃん』からの連想

『杉森くんを殺すには』長谷川まりる・著 おさつ・絵 くもん出版 2023年

評判は聞いていた。興味はあった。しかしどうしてもタイトルに引いてしまい、なかなか手に取ることが出来なかった。タイトルの物騒さに比べてポップな感じの表紙にも戸惑った。

読んだのは昨年だったが、『りぼんちゃん』の感想を書きながら、タイトルと中身の違いといえばこれもそうだったな、と思い出した。
タイトル通りのことが起こるとは思っていなかった。ただインパクトを狙ってのタイトルなら、ややあざといかなと、そこに躊躇いがあった。

たぶん(いじめなどで)傷ついた主人公が再生する話だろうと想像はついた。だがのっけから「杉森くんを殺すことにした」と主人公のヒロが言い出したので、これはかなり深い傷だな、一筋縄ではいかないぞ、と思った。言葉の深刻さに比べて口調は軽く、文体もどちらかといえば明るい。この子はどうすれば立ち直れるのかと心配したが、相談した相手ミトさんが実に的確なアドバイスをくれた。
「どうしてそう思ったのかを、裁判で説明出来るようにきちんと言葉にしてしておくこと」
「今のうちにやり残したことをやっておくこと」
もうこれだけで立派なカウンセリングだ。こういうやりとりが出来るのは、2人の間にたしかな信頼関係がないと難しい。普通はその関係を作るのに時間がかかる。ミトさんがいてよかった。こうしてヒロはそのアドバイスを忠実に実行していく。

「きちんと言葉にする」先日読んだ『他者の靴を履く』でも出てきたが、これは本当に大切なことだ。そう思った理由をひとつずつヒロが言葉にしていくたびに、杉森くんとは誰なのかが明らかになっていく。またやり残したことをやるのに、ちゃんと付き合ってくれる仲間も出来て、それがなんか楽しそうでいい。
喪失と再生。こういうふうな描き方もあるのか。タイトルも含めてこれが作者のスタイルなのだろう。最初の躊躇いに比べて読後感はよかった。

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