『かなたのif』

『かなたのif』

『かなたのif』村上雅郁・著 フレーベル館 2024年

まわりと同じことが出来ず友だちのいない香奈多(かなた)、まわりから浮いている湖子(ここ)、淋しさを抱える2人が出会い交流が生まれる。
2人の視点で交互に語られる物語だが、どこか違和感がつきまとう。この子たちもしかして同じ時空にいないのでは?と見当はつく。その理由が判明してから、自分でも思いがけなくぼろぼろと涙がこぼれた。
村上作品はいつも心に突き刺さるのだけど、泣いたのはこれが初めてだった。いつもは怒りや悔しさが勝るのに。

タイトルの「if 」は「もしも」かなと思ったら「イマジナリーフレンド」の略でもあるのだという。初めて知った。
ではイマジナリーフレンドやパラレルワールド系のちょっとファンタジーな話かと思っていたけど、かなり深い話だった。
香奈多の家庭教師みりんくんの話は難しいけど興味深い。
「もしもの世界」難しく言うと「可能世界論」「様相実在論」。哲学にも、数学にも、物理学にも、それと似た考えがあるそうだ。

ー世界はここだけじゃない。あらゆるものが、あらゆる形で、ここじゃないどこかに、決して手の届かない、遠く遠くかなたに、存在している。そして、それはきっと、ぜんぶぜんぶ、ほんとうのことー

ああ、だから少女たちの名前が「かなた」と「ここ」なのか。
香奈多ーかなたー彼方  湖子ーここー此処

そして湖子が書いている物語の中の、「夢渡り」する黒ネコのドコカ。

もしもの世界とは、現実からの安易な逃避だという人もいるだろう。しかしこの2人はお互いを本当に大切に思い、会いたいと心から望んだから会えたのだ。
出会いと別れ、喜びと悲しみ。たとえ失われても喜びの日々は決して消えない。

湖子の言葉
ー心のそこから大切だと思える人と出会えたよろこび それって、きっと、人間が生きる意味、そのものだったー

香奈多の言葉
ーひとりぼっちが願うのは、自分以外の、どこかのだれかと、出会って、つながること そうやって、心のそこから大切だって、そう思える関係を築くことー

なんだよ、もう、この子たちの健気さにぼろぼろ泣いたよ。うん、君たちは大丈夫だよね。
そして意外にもキーパーソンだった佑実ちゃんと、どんな関係を築いていくのかこれから楽しみだ。

ここ2、3日、あまりにきついニュースに触れて疲弊していて、予定になかったこの本を衝動的に読んで、めちゃくちゃ心が揺さぶられた。

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