『この銃弾を忘れない』 | 日々の雑記
『この銃弾を忘れない』

『この銃弾を忘れない』

『この銃弾を忘れない』マイテ・カランサ・作 宇野和美・訳 徳間書店 2024年

スペイン内戦時代(1936〜1939年)の実話を元にした話。
1938年13歳の少年ミゲルは、反乱軍に抵抗して捕虜収容所に居る父親を探し出し、連れ帰るため旅立つ。200キロの道のりを忠実な犬のグレタだけを道連れに歩き通す。険しい自然の脅威、敵方や味方の兵士との遭遇、密告する人、助けてくれる人、さまざまな出会い、困難を通してミゲルは身も心も大きく成長する。

時代背景がスペイン内戦ということで、まず、2つの陣営の呼称に迷った。政府と反乱軍。どっちがどっち?なんとなく圧政に立ち向かうのが反乱軍という印象だけど、このスペイン内線では、民主主義の共和国政府に対して軍が反乱を起こし、ミゲルの父親は民主主義を守るため共和国軍に加わった。ミゲルたちの村は反乱軍に制圧され、内戦自体も反乱軍有利に進んでいるらしい。この事情を理解するまで少し時間がかかった。

母親がミゲルに「父親を探して何とか連れ帰って」と頼んだ時は正気を疑った。この状況で?一度は断ったミゲルも、村の反乱軍の横暴さと、母親の悲しみ家族の気持ちに後押しされ、出発する。
ミゲルの決心は立派だけど、わたしは途中までとても無理だと思いながら、ハラハラしながら読んでいた。次々と襲ってくる困難の中でも、人々との暖かい交流もありほっとする時間もある。分断された国家で誰が敵か味方か分からない状況でも、信じられるものはある。おとぎ話のような顛末だけど、これが実際にあったこととは驚く。
巻末の訳者の言葉で「物語の中にスペイン内戦の時に本当にあったさまざまなエピソードを盛り込んでいる」とあるので、ミゲルに託して当時の人々が実際に経験したことを描いているのだと分かる。

この後史実では反乱軍が勝利しフランコによる独裁政治が1975年まで続く。このことを知ってその後のミゲルたちの運命を考えると、辛くてならない。でも作者の想像通りであってほしい。

作者は内戦を知らない若い世代のためにこの作品を書いたという。
「すべての子どもが、二度と再び戦争を体験せずにすむようにと願っています。」

今の世界を思うと、作者のこの言葉が痛い。

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