『願わくば海の底で』額賀澪・著 東京創元社 2025年
ある高校の菅原晋也というひとりの生徒。彼について1話ごとに語られていく。語り手は上級生、同級生、教師とさまざま。彼はどんな人間だったのか、1話から3話で1年生から3年生の彼の姿が浮かび上がってくる。第4話では彼が進学するはずだった大学の空のロッカーを見せ、彼の不在を示す。
第5話であの震災の話になる。最後のページにこの第5話が『放課後探偵団2』(2020年)というアンソロジーに発表されていたことを知った。その前日譚として第1話から4話までと5話の後の最終話が書かれたという。ああ、それでか、と思った。1話から3話までは正直彼のことより語り手の方が印象に残ったのだ。この第5話を先に読んでいたら、彼についてもっと知りたいと思ったかもしれない。
5話の震災の描写は、あの日テレビで見た真っ黒い波が押し寄せてくる映像が思い起こされ辛かった。
その後の最終話で語り手たち、残された人々の姿が垣間見られる。あの海へ向かってそれぞれが祈る鎮魂の章。読んでいるとどうしても涙が出てきてしまう。わたしも祈ることしかできない。どうぞ安らかに。
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