戦場の図書館 本を守る人々

戦場の図書館 本を守る人々

新刊書架で見つけた絵本『シリアの秘密の図書館』を読んだら、あとがきに「本当の出来事を元にしている」とあったので、その元になった出来事を書いた本を借りた。そしてやはり戦火から図書館の本を守った絵本を思い出した。

『バスラの図書館員ーイラクで本当にあった話ー』
ジャネット・ウィンター/絵と文 長田弘/訳 晶文社 2006年

イラク戦争時に、空爆から本を守るため、図書館から本を自宅へ運び出し、消失から守った図書館員の話。その9日後図書館は空爆で消失した。その後図書館は無事に再建され、本も図書館に戻されたという。


『シリアの秘密の図書館』
ワファー・タルノーフスカ/作 ヴァリ・ミンツィ/絵 原田勝/訳 くもん出版 2025年

シリア内戦下、首都ダマスカスの子どもたちが戦闘で破壊された建物から本を運び出し、地下室に集めて図書館を作った。町の人も手伝って本の数も種類も増え、長い戦闘の間子どもたちはこの秘密の図書館で、本を読み希望をつないできた。
この図書館自体は実在のものではなく、↓のダラヤの秘密図書館の話が元になっている。


『戦場の秘密図書館〜シリアの残された希望〜』
マイク・トムソン/著 小国綾子/訳  文溪堂 2017年

2011年シリア全土でアサド政権に対する抗議デモが起こり政権側の弾圧が始まる。2012年政府軍がダマスカスに隣接する都市ダラヤを攻撃し、多くの市民が逮捕処刑される(ダラヤの虐殺)。多くの市民が逃げ出し人口は激減。政府軍の包囲により食料や医薬品の補給が絶たれる。そんな中市内に残った若者たちの手により、瓦礫の中から救出された本で、秘密の図書館が作られた。2016年ダラヤ陥落により市民は退去させられ、秘密図書館は政府軍に発見され、本が略奪される。

シリア内戦については知っていたつもりでまるで知らなかったことを痛感した。このダラヤの包囲は今のガザの包囲を思わせる。この窮状を国際社会が放置していたことも似ている。ダラヤの人々は当初国際社会の制裁や武力介入によってアサド政権が倒され、自分たちで民主的な社会を作れると信じていたという。しかしテロの脅威がそれを阻んだ。最初は民主化を求める平和的な反政府デモだったが、内戦の混乱に乗じてISのような過激派がシリア国内に入り込んできた。そのため「テロとの戦い」を掲げる西側諸国は、反政府側を支援すれば、それが過激派のテロリストを利することを恐れたという。たしかにあの頃ISへの恐怖は世界にあった。だが正確なところはわたしにはわからない。たぶんもっと複雑な国際間の問題、周辺国や大国の思惑もあったのだろう。

この国際社会の「言い訳」は今のイスラエルの、「支援物資がテロ組織ハマスに渡るのを防ぐため」という言い分に通じるものがある。そんな「言い訳」より、目の前に食料も医薬品もない人々が居るのに、わたしたちは何もしないでいていいのか。無力感に苛まれる。

そんな絶望的な状況のなか、明日への希望をつないだのが図書館であり本だった。
秘密図書館はその短い歴史を閉じた。この作品の刊行時にはまだシリアの内戦は続いていた。アサド政権崩壊後のシリアの情勢についてはくわしくは知らない。だがイラクのバスラ図書館のように、ダラヤの町にも新しい図書館が建ち、市民が自由に本を読める時が来ることを心から祈っている。

秘密図書館創設メンバーの言葉が忘れられない。「体が食べ物を必要とするように、魂には本が必要なんです」

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