『アンナ・コムネナ』女性と出産

『アンナ・コムネナ』女性と出産

『アンナ・コムネナ』
この作品の皇妃皇女たちは子沢山である。子どもは帝国の繁栄の為に多ければ多いほどよかったのだろうし、その環境も整っていたろう。皇族なので、他のことに(家事や育児など)悩まされず出産に専念出来る。
良いことみたいだが、つまり女は子どもを産んでさえいればいい、それだけが仕事、それさえしていればいいという価値観の世界。自分にはそれだけしか価値がない、と思わされている女性の姿を見るのは辛い。

アンナの母エイレーネーはアンナを筆頭に9人産む。11歳で嫁ぎ14歳で皇后になり17歳で初産、それから絶え間なく妊娠と出産を繰り返し、第8子第9子を幼くして亡くす。31歳でこれ以上の出産には耐えられないと診断される。その時の彼女の嘆きが「もう自分は皇后の務めを果たせない」というもの。「頑張って頑張って頑張って産み続けてきた、でももう駄目」と泣き崩れる。そんなことを思わせる世界に猛烈に腹がたつ。

アンナの弟は、なかなか子どもが生まれない妻に「自分に問題があるかもしれない」と理解ある言葉をかけるが、それでも責められるのは妻の方なのだ。

ヨハネスの妃ピロシュカは7人産んだ後、もう体が持ちそうにない、では自分はこれから何をすればいいのかと悩む。エイレーネーと同じだ。

アンナ自身は6人出産し第5子第6子を亡くす。子どもの死亡率が高いのはこの時代仕方ない。

仲のいい家族は見ていて微笑ましいが、そのなかでもさまざまな悲しみは存在する。

皇帝は嘆くエイレーネーを慰め、常に傍らにいて自身の支えとなることを求めた。子どもを産むだけでない皇后の役割が生まれたことは喜ばしい。これはアレクシオスの偉かった点。だがそんな皇后のあり方(皇后の役割発言力が強くなる)を苦々しく思う周囲からは非難される。ヨハネスも、男に仕えて子どもを産むのが女の役割という考えだ。

アンナの妹エウドキアの結婚生活は夫のDV夫婦間レイプに耐えるものだった。離婚して修道院で穏やかに暮らせるようになり解決したけど、このことでエイレーネーは痛感する。女は常に軽んじられ、皇女皇后でさえ虐げられ公然と侮辱される。ヨハネスの治世になったらおそらく女の発言権はなくなる。その危機感がエイレーネーにアンナ即位を決意させる。これはただの皇位継承争いではなく、女性の地位向上への戦いであった。

今でも、女性は子どもを産むことにこそ価値がある、という考えは根深くある。アンナたちの戦いは今も続いている。

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