ミュージカル「ある男」

ミュージカル「ある男」

WOWOW放送の録画視聴

原作本は未読で映画版だけ以前見ていた。面白かったので、どうミュージカル化するのかと興味はあった。

映画で満足していたので、それとの違いに戸惑った鑑賞になった。これは原作を読んでからのほうが良かったのかもしれない。

ミュージカル版の主役は最初から浦井健治演じる城戸で、オープニングで彼の心情を表すナンバーが派手に繰り広げられ、そこでまず躓いてしまった。映画での里枝(安藤さくら)と大祐(窪田正孝)の出会いから、夫婦となり穏やかで幸せな家族の生活を描いたシーンがとても好きだったので、その静謐さに比べてあまりにも賑やかすぎたのだ。その幸せが突然崩れて、それから城戸が里枝の相談を受ける旧知の弁護士として登場する。あくまでもわたしは大祐の過去が物語の主軸だと思っていたし、その部分に深く惹きつけられたから、城戸がメインになる事に戸惑ってしまったのだ。
確かに大祐を名乗っていたある男「X」を追う城戸が、物語を引っ張る主人公ではあるのだろう。映画でも物語が進む中で、城戸自身が家族の中で浮いていて、居心地悪い思いをしていることが浮き彫りになってくる。映画と違いミュージカルでは、城戸の妻は健気に夫との隙間を埋めようと努力しているのに、城戸のほうがそれを拒否してるように見える。だからなんか城戸の方にムカついてしまう。それなのにラストは、やたら明るい表情と声の城戸が、妻に電話する場面で終わるのだ。なんだかなあ。映画のラストの方が好きだ。

城戸の出自(在日で結婚の時妻の両親の要望で帰化した)と「ヘイトスピーチ」という言葉がやたらと出て来るのも、少し雑に感じた。これはもっと慎重に取り上げるべき問題ではないかと思った。それによって今の社会の問題を浮き上がらせているのだろうが。社会問題としては戸籍の売買と、犯罪者家族の生き辛さも描いているので、そちらがメインで良かったのに。

「X」がボクシングジムで、つかの間のあたたかい居場所を持てた事、それを捨てねばならないと苦しむ姿、あのシーンが1番心に残った。偽りの人生を生きねばならなかった「X」だが、里枝と出会い幸せな日々を過ごせたことは、彼にとって良かったと思う。

わたしは静かな「ある男」が好きだったのだ。だから賑やかなミュージカルナンバーになると、ちょっと拒否反応が出てしまう。でもいい歌もけっこうあったし、演者のパフォーマンスは良かった。

特に鹿賀丈史とM田めぐみは素晴らしかった。鹿賀丈史はうさんくさい戸籍ブローカーと、ボクシングジムの会長というまるで違う役を、見事に演じ分けていたし、M田めぐみは圧倒的に歌が上手い。二人とも存在感抜群で、出て来るだけでその場をかっさらってしまう。

もちろん浦井健治は相変わらず演技が上手いし、小池徹平、ソニン、知念里奈、上原理生、上川一哉、と実力者揃いだった。

映画版との違和感は原作を読めば少しは解消されるかもしれない。むしろこのミュージカルのほうが原作に近いのかもしれない。ただミュージカルにするには題材は難し過ぎたような気がする。演者が良かっただけに、惜しいなと思った。

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