映画「黒川の女たち」 | 日々の雑記
映画「黒川の女たち」

映画「黒川の女たち」

映画「黒川の女たち」2025年

7/25 OttOにて鑑賞

あまりに重く苦しくて、何と言えばいいのかうまく言葉に出来ない。時間かけてもどうしてもまとめられなかったが、思いつくまま書いてみた。


戦前の日本が実質統治していた満州国。国策により満州に渡った多くの開拓団が、終戦時の混乱で日本に引き上げるさいに大変苦労し、女性たちを人身御供のように差し出して難を逃れた話は、中国残留孤児の話とともに、大雑把な知識は持っていた。
しかしあらためて満州国の成立過程から、治安維持と有事の際の拠点とするために開拓団を必要とした事を知って驚いた。完全に軍事目的だったとは。貧しい農村の人々の救済のためだと思っていた。(それだって勝手に他国の土地に傀儡国家を作って、勝手に入植するなんて非人道的なことだったけれど) 本当に上っ面の知識だったと思い知らされた。

その目的を知らされず送りこまれた開拓団。終戦時に自分たちを守ってくれるはずの関東軍から見捨てられ、集団自決にまで追い込まれたり、様々な困難に襲われた人々。その中で黒川開拓団はソ連軍を頼り、見返りに女性たちを犠牲にした。仲間のためにと耐え抜きやっとの思いで帰国した彼女たちを待っていたのが、誹謗中傷だったなんて酷すぎる。「帰国してからの方が悲しかった」などという言葉を、彼女たちに言わせるなんて。

本来なら彼女たちをその誹謗中傷から守らなければならないはずなのに、「可哀想だから」と言って、事実をなかったことにした男性たち。男性の都合で犠牲を強いておきながら、感謝どころか彼女たちを「汚れたもの」と貶める。一応罪の意識はあるのだろうけど、だからこそ保身に走る。証言を封じられ、身内から酷い言葉をかけられ、やっと戻れた故郷を離れた人もいる。

彼女たちの証言を聞くこと残すことが出来たのは、当事者の女性たちの強い思いはもちろんだけど、その体制を整えようと奔走した人たちがいたから。当時の開拓団の世代ではなく、その次の世代が頑張ってくれたからだ。そしてここまで時が経たないと無理だったのかとも思う。映画に登場してもう今は故人となった人もいる。本当にギリギリ間に合った。

証言する方たちは決して声を荒らげず、自分の言葉でしっかりと話す。辛く苦しく悲しい過去を背負ってなお強くいられる。この強さと他者への優しさは何だろう。同じ経験をした女性たちがずっと連絡を取り合い、時には集まり、喜びも悲しみも分かち合ってきたことが大きいのかも。膨大な手紙の束がそれを物語っている。1人では耐えられなくても、支えあい寄り添う人がいれば生きていける。理解ある家族の存在も大きい。孫から尊敬していると言われて嬉しそうだった。
沈黙を貫くことも自分を守る手段である。しかし証言したことで、人としての尊厳を取り戻すことも出来たのではないか。顔を隠して証言していた人が、後に晴れ晴れとした顔を出してくれたのが印象的だった。

想像を絶する証言の前に立ちすくんでしまうが、忘れられないものをいくつか。

「渡満した時、父親が先に行って家を用意しておくというので、新しい家が建っていると思ったのに、そこは以前満人(この言い方は当時としては仕方ない)が住んでいた家だった。国民服を着て帽子を被った父の姿を見たら満人たちは逃げて行った。それだけ恐れられていた」

ーはっきり自覚していたわけではないけど、自分たちが本来の持ち主から家も農地も奪ったのだという事実は、わかっていたんだなと思った。

「そこでは学校のようなものがあって、一年ほど色々(勉強とか)教えてもらった。その時の先生(男性)から、戦争に敗けたら女は大変な目に合う。覚悟しておくように。と言われた」

ーその先生はどういうつもりでそんな事を言ったのか?敗戦を意識していたのか?どういう覚悟なのか?性接待の可能性についてか?自決の覚悟か?

「全員が並べて寝かされた。その間みんなで手をつなぎあって、お母さんお母さんと泣いていた。ソ連兵は背中に銃を背負ったままだったから、怖くてたまらなかった。」

ーなんという扱いか。同じ部屋で手をつなげる距離に並んで寝かされて、一斉に強姦されていたという事。銃が暴発したらという恐怖もあった。

「お姉さんたちのためにお風呂をわかしていた」

ーまだ年少で選ばれなかった少女が、母親から風呂を沸かすように言われ、自分が入るためかと思ったらそうではなかった。女性たちのための風呂だった。その時どこまでわかっていたのか、でも何か嫌なことをさせられていることは感じていたのだろう。この少女が女性たちと長年交流を重ね支え続けている。

「わたしは洗浄係だった。妊娠や病気を避けるために、女性たちの体を冷たい水で洗う。地獄だった」

ーあまりに生々しくて声も出ない。それでも病気で亡くなる人がいたのだ。妊娠した人がいなかったのだけが救い。

犠牲者の息子さんの言葉。
「母の書いた文章の肝心な部分が断りもなく勝手に削られていた」

ー何の文章か聞き逃したのだけど、どうしてもあの事実をなかったことにしたかった人たちがいたのだと分かる。

「黒川開拓団は日本の縮図。あの戦争の総括を誰もしていない」

ー日本が抱えるすべての問題の根源はここにある思う。きちんと総括して、後世に反省と教訓を残していかなくてはならない。


1982年に黒川開拓団引揚者慰霊碑に、「乙女の碑」が建てられたが、何の為の碑かという説明はなかった。その碑文を建てようと奔走したのが、遺族会四代目会長。彼の父親が開拓団員だった。戦後生まれの世代になって、ようやく女性たちの存在を公にする動きが見られたのだ。何度も何度も碑文を推敲する姿、女性たちを訪ねて真剣に話を聞く姿から、誠実な人柄がみてとれる。完成した碑文の除幕式で、涙ぐみ謝罪する彼に「あなたのせいじゃない」と声がかかる。彼個人に責任はない。しかし遺族会会長という立場からの謝罪だった。こんなに真摯に自分の職責と向きあえるなんて、上に立つ人にはこうあってほしい。


多くの人に見てもらいたい映画。そしてしっかり次の世代に語り継いでいかなければならないと思った。映画の中である学校の授業風景があったけど、あの授業を全ての学校でするべきだ。あの戦争について被害だけでなく、きちんと加害についても教えていた。わたしはこの年になるまで知らずにいたけれど、これからの人たちにはしっかりと教えてほしいと思う。

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