映画「CROSSING 心の交差点」 追記あり

映画「CROSSING 心の交差点」 追記あり

映画「CROSSING 心の交差点」

レヴァン・アキ/監督  2024年  スウェーデン デンマーク トルコ ジョージア

1/26 OttOにて鑑賞

ジョージアの元教師リアは長年看護していた姉の死後、行方不明のトランスジェンダーの姪テクラを探しにイスタンブールへ旅立つ。同行者はテクラが以前住んでいた家に住み、テクラの行方を知るという青年アチ。勢いで連れになったような2人の道中はぎこちなく、インタンブールでの捜索は捗らない。諍いがありながらも次第にそれぞれの事情が明らかになっていき、少しずつ2人の距離が近づいていく。アチがホテルの従業員に紹介されたNGO「ピンクライフ」で、弁護士資格の申請中のトランス女性エヴリムの力を借りることになる。

哀しく淋しくよるべない人々の、ひとときの邂逅と別れに心がゆれた。人は淋しい、それでも生きていく。しんみりと余韻の残る映画だった。

「イスタンブールは誰かが来ては消えていく場所」という。居場所のない人々が集まって来るのは、それを受け入れ詮索しない場所、優しい場所だからなのか。リアとアチが出会う人々は、概ねみんな優しかった。お金や荷物を取られることもなく、再度訪ねた娼館のトランス女性は「また来たの?居ないって言ったでしょ」と言いながらも招き入れてお茶を淹れてくれる。言葉も通じないのに。娼館の若い子が、リアが姪を探していることを聞いて「優しいのね。探しに来てくれるなんて」と言う。ここの人たちも皆同じ辛い過去を背負っている。

映像がおもしろかった。最初にひたすら歩くリアを映し、意思の強そうな女性で何かしっかり心に決めたことがありそうに見える。次に窓辺で寝そべるアチを映し、そしてその窓の向こうからやって来るリアが見える。アチはイスタンブールのホテルでも窓辺のベッドにいた。働きに出て帰って来ない母親を待っていたのか、そして強圧的な兄の家から逃れたい思いもあったのか。イスタンブールでのフェリーの中を動くカメラが、最初の上等そうな船室から普通の船室、最後にデッキに移っていき、多分運賃の差があるのだろうとわかる。そのデッキにリアたちもいて、船から身を乗り出すアチの姿からもう一つ上のデッキにいるエヴリムにカメラが移る。それからしばらくはカメラがエヴリムを追いかけるので驚いた。実際にリアたちと会うのは結構終盤なのに。フェリーにはギター?を弾き歌う少年と妹らしき2人連れもいる。このフェリー上で主要人物が出揃っている。イスタンブール市内での移動手段がフェリーというのも、意外でおもしろかった。

リアたちに親身になってくれるエヴリムは、最初の方で病院で性別変更手続きをしている。面倒見が良い信頼出来る姐御という感じ。リアから「その靴(ハイヒール)痛くないの?」と聞かれてエヴリムは「私はこれが好きなの」と答える。その堂々した答えに、自分の生きたい道を進む自信がうかがえて頼もしい。その彼女も警察官との会話で、昔は捕まった事が何回かあるようで、これまでに色々あったのだろうという事が察せられる。彼女はこの地でしっかり居場所を持ち、仕事や友人もいる。恋人のクズ男はさっさと捨てて、タクシー運転手君と仲良くなってほしい。

言語が英語、ジョージア語、トルコ語で、字幕ではそれぞれの言語が分かるように、カギカッコで工夫してあってよかった。



感想はここで終わるつもりだった。でもずっと考え続けていた事があって、気になって仕方ないので、やっぱり書いてみる。

気になるのはアチとリアの今後。
アチはラストでリアと別れ、イスタンブールに残りホテルの仕事でもすると言う。人懐っこいし、一応英語も少し喋れるけど、住む所もないままちゃんと職につけるのか心もとない。困ったらエヴリムを頼ればいいけど、大丈夫かな。

リアは、たぶんもうジョージアには帰らずに、テクラを探し続けるのではないかと思う。そもそもあまり計画的に動いていない。テクラがイスタンブールへ行ったと聞くと、言葉も分からず場所も分からないのに1人で探しに行こうとする。うさんくさいアチをすぐ雇ったり。元教師というのでさぞきちんとした生活をしていると思ったら、家は荒れ放題だったし、薪がないから暖炉は使えないし、隣の家から勝手に野菜を取ってこいとアチに言うし。翌日隣家の子どもが「野菜を持っていったので、お菓子もどうぞと母さんが」とお菓子を持って来てくれた。野菜を無断で取られて怒るのかと思ったら、どうも隣家の人の好意で暮らしているようだ。仕事も辞めて姉の看護で家の管理もままならず、収入もなく苦しい生活だったのではないか。姉の箱からテクラの写真とアクセサリーを持ち出していたが、そのアクセサリーは金に替えるためだった。姉を看取った後、彼女は生きる意味を失ってしまった。だから唯一心残りだった姪に、どうしても会わなければならなかった。姉の為というより、彼女自身の為に。もうそれしか彼女には残っていなかった。そして姪を抱きしめ伝えたかった。
「あなたを失望させた。人からどう見られるかばかり気にしていた。あなたを愛している。ここに残ってあなたを探し続ける」

ラスト、リアはフェリーに乗っている。最初はジョージアに帰ると思っていたけど、これはそうではなく、これからも続くテクラを探すリアの旅ではないかと思った。

追記
書き忘れていた事。イスタンブール出発前にリアが自宅で微睡んでいた時、リアの手にそっと添えられる誰かの手が映る。その手はリアの頬にも添えられ愛しそうに優しく撫でていく。説明はない。でもあれはテクラの手だろう。リアがテクラの夢を見ていただけかもしれないが、あれはリアの望みが形になったのではないか。姉の看護に疲れ果てたリアを、テクラに優しく慰められたい。慈しむように撫でてほしい。
それなのにテクラを理解出来ず、周囲の目を気にして突き放した過去。リアはどれだけ後悔しただろう。アチに「私たちは無知だった」と淋しそうに言っていた。だから何としてもテクラに会わなくてはならない。テクラを抱きしめるというより、テクラに抱きしめられたい。やはりどこまでもリアはテクラを探し続けるのだろう。

ものすごく自分勝手な思い込みを書いてしまった。映画の意図とは違うかもしれないが、どんな感想を持つかは個人の自由だから、許されると思う。

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