映画「私たちが光と想うすべて」

「私たちが光と想うすべて」  
パヤル・カパーリヤー監督 2024年 フランス インド オランダ ルクセンブルク

1/5 OttOにて鑑賞

ああ、いい映画を見たな、という思いが後からじわじわとわいてくる。

インドの大都市ムンバイ、最初にそこに暮らす人々の様々な声が聞こえてきて、一瞬ドキュメンタリーかなと思った。実際に街の人々の声らしい。その中に「みんな親戚の中で誰か一人はムンバイに居る」という言葉があり、ムンバイの活気は地方からの労働者が支えている現状がわかる。

そのムンバイに地方から出てきて働いている3人の女性、同じ病院で働く看護師のプラバとアヌと食堂のパルヴァティ。彼女たちの日常を描きながら、それぞれが抱える事情が次第に明らかになってくると、何とも言えない息苦しさを覚える。

プラバは親の勧めるままに結婚した夫が、結婚後すぐにドイツに仕事に行きもうしばらく連絡もない。これで結婚していると言えるのか?同じ病院の医師から思いを寄せられているが、既婚者の身ではその思いに応えることもできない。さっさと夫に見切りをつければいいのにと思うが、たぶん家族の許しなく勝手は出来ないのだろう。きちんとした職につきしっかり自立しているのに、自分自身についての重大な決定権はないのだ。

アヌには親に内緒のイスラム教徒の恋人がいる。母親からはしょっちゅうお見合い相手の写真が送られてくるが無視している。しかしふたりにこの先の展望があるのか?もし結婚するとしたらどちらかが改宗しなければならないのでは?恋人も今のところ家族には隠しているようだし、このことが知られたら大変な事になるのでは? 下手すれば名誉殺人の危険だってあるのに。恋人が家族の留守に彼女を家に呼ぶ時、周囲に合わせるためにヒジャブ(ブルカ?)を着て来い、と言った時、なんだこの男はと思った。

パルヴァティはビル建設のため住んでいる住居を追い出されそうになっている。亡くなった夫が住居についての正式な書類を彼女に残しておかなかったため(そもそもそんなものがあったのか、彼女には何も知らせずにいたのか)居住権を訴えようにも書類が見つからず、弁護士もお手上げだ。長年そこに住んでいたという証明どころか、彼女が彼女である証明すら出来ないという。

彼女たちは自立して真面目に生活しているのに自由ではない。家族の束縛、カースト制、経済格差、宗教の問題等々が彼女たちを縛りつける。インド特有のものもあるが、家父長制やジェンダー差別など現代のわたしたちに共通することでもある。工事現場の看板に石を投げて鬱憤を晴らす場面があるが、その看板に「階級は特権です。豊かな暮らしを」と書いてあるのにギョっとした。

このままやるせない気持ちのまま終わるのかと思ったら、3人でパルバティの故郷の村に行く終盤で雰囲気が変わる。都会の喧騒を離れて海や森や洞窟などの自然にふれ、見ていても開放的な気分になる。パルヴァティは故郷の家に住み仕事を得る。プラバとアヌはそれぞれ一歩を踏み出す。根本的な問題は解決していないが心の解放はある。夜の海辺の店先で(日本の海の家みたいな作り)光に包まれながら海を見つめる3人(もう1人いるけど)のラストシーンは美しい。

見た直後よりも後からいろいろ思うところが湧いてきて、長く心に残る映画だった。


パンフレットを読んで初めてプラバとアヌが話しているのが、マラヤーラム語だということがわかった。インドは公用語はヒンズー語であるけど、憲法で正式に22 言語が使用言語として認定され、各州の公用語として使用されている。
プラバに思いを告白した医師が、今の病院を辞める理由の一つに「言葉もよくわからない」と言い、プラバが「ヒンズー語は難しくない」と慰める場面があったけど、彼も母語がヒンズー語ではなかったのか。ムンバイの公用語はヒンズー語。冒頭の人々の声もたぶん様々な言語が飛び交っているのだろう。
アヌがプラバをお姉さんと呼ぶ言葉、正確な発音はわからないけど「ティティ」のように聞こえた。以前ネパールにいた時、ネパール語で姉は「ディディ」だったので、ちょっと似てるなと思った。
病院の看護師の制服がアヌとプラバで違っていたのが不思議だった。アヌは普通の事務服みたいでプラバはサリーだった。役職の違いかなと思ったけどどうなのだろう。

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