映画「ブータン 山の教室」

映画「ブータン 山の教室」

映画「ブータン 山の教室」
パオ・チョニン・ドルジ/監督・脚本 2019年 ブータン ゾンカ語、英語

5/15 Ottoにて鑑賞

ブータンの首都ティンプーに暮らす教師ウゲンは、オーストラリアに行き歌手になることを夢見て、肝心の教師の仕事には身が入らない。そんな彼がティンプーから8日もかかる辺境のルナナ村に赴任することになる。都会育ちで外国に憧れている青年が、電気も携帯電話も通じない辺境の地で村人や子供達とふれあう様子を、美しいヒマラヤの自然を背景に描いていく。


とにかく自然が美しく子どもたちはかわいい。村人は誰もが穏やかで教師として来てくれたウゲンに感謝している。わざわざ隣村から子どもを連れてくる親もいる。ある生徒が将来の夢が教師で、なぜなら「教師は未来に触れることができるから」と言う。それは村長がいつも言っている言葉だった。教育により子どもたちの将来に、できるだけ多くの選択肢を与えてやりたい思いが込められている。おそらくそれまで真面目に考えていなかった教育の大切さに、ウゲンは初めて気付かされたのだと思う。当たり前のようにある教育の機会が、どれほど恵まれたものであるか、この辺境の地の人々がどれほど教育を渇望しているか。最初は「とても無理、今すぐ帰りたい」と言っていた彼が、帰りの準備が整うまで仕方なく教えているうちに、子ども達と過ごす楽しさを覚え、真剣に教育に取り組むようになっていく。もうこのままずっとここで教師をしていればいいのにと思うが、冬が来ると学校は閉鎖されウゲンは町に帰ることになる。元々冬が来るまでの任期だった。
「春になったらまた来てほしい」というみんなの希望には、応えることが出来ない。ずっと憧れていた自分の希望が、叶えられる知らせがきたから。しかし来た時と帰るときでは、明らかに彼の心は違っている。村の人々のように自然を敬い感謝する心を知り、自分の芯になるものを得られたような気がする。いつかまたこの地に帰れるかもしれないという、ほのかな希望も持っているように見える。


村までの旅が結構長くて驚いた。最初の1日はバスだけど、そこからは村からの出迎えの2人と荷運びのロバ3頭で徒歩で行く。しかも一泊は普通の民家、そのあとはずっとテント泊である。美しい声の鳥の鳴き声を聞きながら山道を登り、ぬかるみに足を取られ川を渡り、最後の峠で祈りと歌を捧げる。この旅程をずっと見せて行くことで、目的地がどれほど辺鄙なところなのか、どれほどウゲンがうんざりしているかがわかる。そしていよいよ村に近づくと、空が一気に開け雄大な山々が広がる。どこまでも広がる空と山。この美しい景色を見られただけで幸せな気持ちになる。
子どもたちの曇りのない目がいい。あんな目に見つめられ、全幅の信頼と期待を寄せられると、いい加減にあしらうわけにはいかないだろう。それに応えようとするウゲンも、本当は教師に向いているんじゃないかと思った。彼が教師として目覚める話にしてもよかったたけど、そうではなく彼には彼なりの夢があり、それを追いかけることを否定していないこともよかった。ちょっとあっけなかったけど、村に伝わる「ヤクに捧げる歌」で終わるのがよかった。
村長の「この国は幸せの国と呼ばれているけれど、未来を担うあなたのような人が、外国に出て行ってしまう国なんですね」と寂しそうに言っていたのが印象に残った。国が発展していく過程で新しく取り入れられるもの、失われていくもの、これはどの国にもある課題なのだろう。

映画鑑賞の折に入場者プレゼントとしてブータンのハーブティーをもらった。

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