映画「侍タイムスリッパー」 | 日々の雑記
映画「侍タイムスリッパー」

映画「侍タイムスリッパー」

上映が始まった昨年からずっと見たかった映画。でも映画館は遠いし、テレビ放送を待つしかないと思っていた。幸い近場に出来たミニシアターで上映してくれたので、喜んで見てきた。(今週金曜日には地上波で放送があるけど、やはり映画館で見たかった)
その前に予習として、この映画の制作過程をテレビドキュメンタリーで見ていたし、伝説の切られ役福本清三さんのドキュメンタリーも見ていた。

期待通りおもしろかった!
元々タイムスファンタジーは大好きだった。その上「幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイムスリップしてくる」なんて、もうそれ聞いただけで勝ったも同然と思えた。突然大都会の真ん中で現代人がひしめく中にやってくるんじゃないのがいい。それだと大パニックが起こってしまうけど、この設定だと最初は彼も時代のズレには気づかずいられるし、いでたちも違和感ないので周りに受け入れられやすい。上手い設定だなあと感心した。上から目線ですみません。

それでも誰も彼に疑問を持たず、現代人の時代劇俳優(大部屋)だと信じているのが、まあ普通あり得ないのだけど(真剣持ってるし、マゲは本物だし、身元はっきりしないし、怪しさ満点なのに)そこはファンタジーだから。記憶なくしてるからと好意的に見てくれる人たち、基本的に皆優しい。悪い人嫌な人が1人もいなかったのは、とても気持ち良かった。

俳優陣も知ってるのは主演の山口馬木也以外は、お寺の住職さん(名前は知らないけど顔は見たことある)、住職の妻(紅萬子、この人は大阪制作の朝ドラによく出ていた)ぐらいしかいない。でもみんな良かった。
特に風見恭一朗役の冨家ノリマサはこんな重厚で、しかもあたたかく誠実さもある役者さんいたのかと驚いた。
殺陣師役の峰蘭太郎も素敵だった。本来は福本清三が演るはずだったという。そこはドキュメンタリーでもやっていた。

タイムスリップしてきた彼が受け入れられたのは、彼の誠実な人柄が大きかったと思う。うっかり本物の揉め事だと思い刀を抜いて撮影現場に参加してしまい、監督から怒鳴られる場面など、何も分からないがとにかく自分は何か間違いをおかしたらしい、と高圧的な態度をとらない。あまりのことに呆然として頭がまわらないからかもしれないが、そこでやみくもに暴れることもしない。
それでも自分の置かれた環境を理解して受け入れるのは、並大抵のことではなかっただろう。
自分が守ろうとしていた江戸幕府がとうの昔に滅んだことを知った時は切腹しようとする。ちょうどその時に雷鳴が響き、タイムスリップした時のことを思い出し、剣を突き上げて「戻せ!戻せ!」と絶叫するさまが痛ましかった。

やがてこの世界で生きていくために彼の選んだ職業が、時代劇の切られ役。たしかにそれ以外ないというもの。絶望から新しく生き直す彼の姿、決して多くは望まず愚直に生きる姿に心打たれる。

新作映画ラストの勝負は、どうなるか全くわからなかったので緊張の連続だった。手に汗握りその顛末を見守った。


タイムスリップする場所だけど、お寺の門前にいたのに撮影所に現れた時は、かつてお寺だったところに今は撮影所が建っているからと思っていた。ところが町を彷徨っていてあのお寺の門前に来たので、違う場所だったと気がついた。どうして場所がズレていたのだろう。撮影所の時代劇セットが、あの時代の記憶を蓄積していて、それが作用して彼を呼び寄せたのだろうか。
ジャック・フィニィの『ふりだしに戻る』やリチャード・マシスン『ある日どこかで』では当時の建物、当時の新聞、服装、硬貨などを利用して、その時代にタイムスリップしていたけど、それと同じ理屈なのかな。

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