映画「フォーチュンクッキー」 | 日々の雑記
映画「フォーチュンクッキー」

映画「フォーチュンクッキー」

主人公の不敵な面構えが印象的。
祖国を追われるように逃げ出し、異国での孤独な生活を送る若い女性の姿を、ことさら劇的でなく何でもない日常を積み重ねていく描き方。退屈なようでいて、それがじわじわと心に沁みてきた。わたしたちの生活はその何でもない日常が大切なのだと思い知る。

最初なんの説明もなく主人公の顔のアップで始まる。工場でクッキーにメッセージ(おみくじのようなもの)を包み込む仕事をしている主人公ドニヤ。この工場がいかにも家庭内工業っぽくて、手作業で包んでいる。中に1人だけ高齢の女性だけがパソコンらしきものに向かってキーボードを叩いていて、それがクッキーに入れるメッセージを書いていることに後で気づいた。同僚のジョアンナと少しおしゃべりをする他は黙々と仕事をこなして、家に帰ると1人暮らしらしいアパートで、隣人と少し会話したりする。
彼女はあまり喋らないし笑顔も少なく表情が乏しい。大きな目、きっと結んだ唇、微動だにせずじっと対象を見つめる顔からは、とてつもない意志の強さを感じる。

不眠症を訴えアパートの隣人から精神科の予約を譲ってもらい、精神科医との面談でようやく彼女の背景が分かった。
アフガニスタンで米軍の通訳をしていた彼女は、タリバンの復権後身の安全のためにアメリカにやってきたのだ。身近で戦闘を見聞きした経験や同じ通訳仲間の悲劇など、精神科医からはPTSDを指摘されるが、ただの不眠症だから薬だけほしいという。彼女は否定するが、こんな壮絶な経験をすれば不眠症にもなるし、明らかにPTSDではないかと思う。最初頼りなく見えた精神科医が懲りずに何回も面談を重ねる。彼女も「薬だけ」と言いながらそれに付き合う。時には彼女のほうが彼を慰めるような場面もある。職場とアパートの往復だけの彼女の生活の、いい気晴らしになっているようだ。

メッセージを書く老女が突然死(びっくりした!)した為、彼女がその役目を引き継ぐ。そしてそこに個人的なメッセージをこっそりしのばせてしまう。ルール違反ではあるが、これが彼女の生活を変える第一歩となる。

とにかく主人公ドニヤの面構えがいい。
あまり感情を表さない彼女が感情を爆発させる場面がある。
同僚のジョアンナが自宅のカラオケで歌った時(彼女の声がとても美しかった!)ジョアンナの歌を聞いたドニヤが涙を流していた。
「Diamond Day」という曲。とても美しい曲だった。エンドロールでも流れていた。

もう一つ、同じアパートでいつも彼女を無視するスレイマンいう男に対して怒鳴るところ。このアパート、アフガニスタンの移民が暮らしているらしいが、彼女が同胞たちのコミュニティに溶け込んでいる姿はあまり見せない。精神科医を紹介してくれた男性と、娘を連れた女性と会話するくらい。そしてこの女性の夫がスレイマンでどうも彼女をよく思っていないらしい。同じ移民同士でもいろいろな考えの人がいるようで、女性であり、米軍の通訳をしていた彼女を裏切者のように見ているようだ。

孤独な彼女にも人とのふれ合いはある。
ジョアンナとは程よい距離感の付き合い方で心地よい。ジョアンナは夜中に電話かけてきたと思ったら、「1人でもダブルベッドにすべき」とアドバイスするし、ブラインドデート(出会い系アプリ?)を進めたりする。少々変わってるけど基本親切。

ドニヤが毎日通う食堂の主人もなんかおもしろい。同郷なのか(たぶんアフガニスタンの)ドラマを見ながら料理を出し話しかける。ドニヤの他にあまり客がいないみたいなのは、はやってないのか、単に客の少ない時間帯なのか。

精神科医もユニークだ。最初「予約を勝手に他の人に譲るなんて」と渋い顔していたけど、ドニヤがあまりに堂々としてるものだから、圧倒されて面談することになる。いざ面談し始めると親身になり、薬だけを希望する彼女のPTSDの治療のため何回も面談を重ねる。フォーチュンクッキーのメッセージを書くことを大いに推奨して、なぜか自分でも書いてみたとメッセージを並べる。自分の愛読書の『白い牙』を朗読し、感極まって泣き出す始末。面白すぎる。

彼が最初「自分の診察には2種類ある、診察代を払ってもらうものとそうでないもの」と言ったので、診察代払えない人の為の枠があるのかな、と思っていたら、娘が「プロボノと言ってたよ」と言う。プロボノとは専門的な知識・スキル・経験を無償提供して、社会貢献するボランティア活動、とのこと。そうか医師としての仕事をしながらボランティアしてるんだ。立派な人なんだなと見直した。

こうしてみるとドニヤは案外人に恵まれているのかもしれない。それは彼女が誠実に生きているからだろう。新しい出会いが彼女にさらに明るい日々を与えてくれることを祈る。

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