『13枚のピンぼけ写真』

『13枚のピンぼけ写真』

『13枚のピンぼけ写真』
キアラ・カルミナーティ・作 関口英子・訳 古山 拓・絵 岩波書店 2022年

第一次世界大戦がはじまり、北イタリアの村から隣接するオーストリアへ働きに来ていたイオランダの家族は、仕事を失い故郷の村へ帰ってくる。父、兄たちが出征し、母が卑劣な告発で逮捕されたため、妹とともに知人を頼って村を出る。さらにその知人の町から、母方の祖母をたずねて旅をする。戦闘のさなかの旅の困難さ、思いがけない母の過去。13歳の少女イオランダの旅の行程、出会う人々を通して、記録に残されることの少ない女子どもたちの、戦時下での暮らしを描いた物語。

表紙にはちゃんとした写真の絵があるが、本文中に挿絵代わりに載っているのは、何が写っているのかはっきりしないピンぼけ写真の絵。そこに写真の説明文がある。変わった構成の本だ。なぜ「ピンぼけ」なのか。そこがこの作品のテーマだった。

ークローズアップされた被写体にだけピントを合わせ、そのほかのものはすべて背景でぼかしている写真があるけれど、兄さんにとっての戦争とは、そんな写真みたいなものだ。兄さんの目にくっきりと映っているのは、戦闘や司令官、敵兵、それに勇気や名誉だけ。わたしたちはその背景に追いやられ、ピントがぼけ、ほとんど見えないくらいにかすんでいた。 ーp116より

また母親がイオランダに言う言葉がある。
ー「戦争というのはね、イオレ、男の人たちがはじめるものなのに、それによって多くをうしなうのは、女の人たちなの」ーp11よりー

男たちがはじめた戦争で、女や子どもたちの姿は、焦点のあった勇ましい兵士たちの姿の後ろに追いやられピントがぼけてしまっている。歴史の記述や記録からはこぼれ落ちてしまっている。でもそこにこそ、戦時中の暮らしの真実の姿がある。著者はそれを掬い上げ断片を繋ぎ合わせてこの物語を書いたという。
為政者、権力者がはじめた戦争で、傷つくのはいつだって庶民、弱い者だ。それをあらためて思い知らされた。

あと印象的だったこと。町の入り口にある弾薬庫が爆発して多くの被害が出た出来事がある。原因は火のついた煙草をくわえた兵士の不注意。ところがこの事件は新聞には載らなかった。その理由は軍が自分たちの不始末を報道させなかったから。そのうちきっと敵の飛行機が爆弾を落としたとか報道させるよ、自分たちの過ちは絶対認めないから、と住民が言う。ああ、大本営発表か。どこも一緒なんだな。

それとイオランダの母と祖母の諍いの原因。祖母は結婚しても仕事を続けたかったけど、夫から反対され娘の誕生もあって諦めた。そして娘には豊かな生活を与えたいと自分を犠牲にしてきたのに、娘は貧しい労働者と恋に落ちた。大好きな仕事、自立した生活を諦めてまで娘のために頑張ってきたのに…。そんな男は娘の相手として認められない。2人は断絶してしまう。
娘であっても自分の所有物ではない。1人の人間として尊重出来なかったのはよくなかった。だがそれと同時に仕事に対する情熱と自立への渇望には感じ入った。この思いを封じられてさぞ辛かったろうと思う。イオランダを通じて2人のわだかまりが少しは消えて良かった。

この「女性と仕事」については映画「ドマーニ!愛のことづて」を思い出した。娘に対して学校へ行くように進める母親の思い。学問があれば、手に職があれば、結婚で縛られることなく自立できる。同じイタリアの女性のそれぞれの思いに、通じ合うものを感じた。

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