また、桜の国で
須賀しのぶ/著 祥伝社 2016年刊
ポーランドについては恥ずかしいことに「ポーランド分割」って世界史にあったっけなあ、程度の知識しかなかった。アウシュビッツがポーランドにあったことも割と最近まで知らなかったし、「カティンの森事件」も映画が公開された時に初めて知った。(映画は未見)
ポーランド分割については、昔池田理代子の漫画「女帝エカテリーナ」(原作アンリ・トロワイヤ)で読んで、ひどいことするなと思ったし、その後やはり池田理代子の漫画「天の涯までーポーランド秘史」も読んで、ポーランドの歴史についてはある程度知っているつもりだった。本当に恥ずかしい。
この作品はわたしの知らなかったポーランドの歴史が、第二次大戦前を舞台に綴られており、非常に感銘を受けた。
1943年のワルシャワ・ゲットー蜂起も1944年8月〜10月のワルシャワ蜂起も知らなかった。冒頭にある大正時代に日本がシベリアのポーランド孤児たちを保護したこと、それにより日本にポーランド・ブームが起きたことなどまるで知らなかった。そのことがポーランド人が日本へ好意を抱く理由になり、帰国した孤児たちにより「極東青年会」が組織され日本との友好に尽力していたことも。もう知らないことだらけだった。
歴史上これから起こる悲劇はわかっている。だから主人公の日本大使館職員の奔走も、痛ましい思いで読んでいた。この主人公外交官だがスパイ並みの活躍をする。しかし外交とは情報戦である限り、あらゆる伝手を使うのは当たり前。主人公の行動はいささか外交官の範疇を越えるものだが、誇張はあっても、あの時代命をかけて戦争回避のため、平和のため尽くした無数の人々が居たことは確かなのだ。そのことは忘れないでいたいと強く思った。
著者の須賀さんは元々こういう歴史ものを描きたい希望があり「神の棘」(ナチス)「革命前夜」(ベルリンの壁崩壊)「紺碧の果てを見よ」(日本海軍)など発表している。コバルト文庫の時から書きたいものはこういうものだろうと感じさせる作家で、一般書に移ってから頑張って書いているなと、応援してきた。いつも設定は魅力的だけど、まだ文章がついていかずもどかしい思いをしてきた。「革命前夜」を読んで、ああようやく一皮むけたと喜んでいた。
本書で直木賞候補になったことを知り感無量だった。受賞はならなかったが、著者の存在を多くの人に知ってもらえて嬉しかった。著者が本当に書きたいものは、ワイマール憲法時代だということを読んだが、ぜひいつか書いてほしい。ただ本人も「需要がない」と言っているが、たしかにまだナチス時代の方が需要あるし、実現は難しいだろうけど、気長に待っていたい。
ポーランドの音楽家といえばショパン。そのショパンの「革命のエチュード」が誕生したエピソードもあり、あの激しい旋律がポーランドの弾圧の歴史に対する苛立ちと怒りをあらわしていることを知った。「信仰も文化も文字も全く異なる国に制圧され、百年以上に渡って奪われ続け」(本書p38より)た国。そしてこの作品の中で、これからまた奪われようとしている国。何度も繰り返し行われる列強による蛮行。今現在も地球のどこかで行われようとしていることを思うと、暗澹たる気持ちになる。