『丘の家、夢の家族』 | 日々の雑記
『丘の家、夢の家族』

『丘の家、夢の家族』

『丘の家、夢の家族』
キット・ピアソン・作 本多英明・訳 徳間書店 2000年

シングルマザーのリーと2人暮らしの9歳の少女シーオ。未熟な母親のリーからはあまり構ってもらえず、本を読んで「夢の家族」を想像するのが楽しみだった。リーは新しいボーイフレンドと暮らすために、シーオを自分の姉シャロンに預けようとする。邪魔者扱いに傷ついたシーオは、シャロンの家に向かう途中のフェリーで自分の理想とする家族に出会い、その家族の一員になりたいと必死で願う。不思議なことにいつのまにかその願いがかなっている。夢のような幸せな暮らしはしばらく続き、ある日終わる。シーオはまたフェリーに乗っている。何が起きたのか? ちょっとあまりない感じの不思議な話だった。

現実が辛いと夢に逃げ込みたくなるが、普通は夢想するだけで終わってしまう。それが現実になることはない。ところがこの作品ではそれが起こるのだ。その謎は後で解けるのだが、冒頭の幽霊の存在が鍵であることは想像がつく。それでうまく説明がつくかどうかは微妙だけど、充分有りかなと思う。

シーオが現実に戻ったあと、もう一度あの夢の家族と関わるのが意外だった。半ば強引だったけど、それだけシーオにとって手放したくない家族だったのだろう。そして夢とは違う一面を見せる家族たち。たしかに以前はどことなく出来すぎで絵空事っぽかった彼らが、欠点もある普通の人間らしくなっている。これが現実。人は良い面だけでなくいろんな面を持っていること、それが理解できると家族も含めて人との関わりかたも変わってくる。それに気づいたシーオの成長が、リーとの関係も好転させる兆しをみせる。

シーオが次々と読む本の題名にわくわくした。本を読むことで想像の世界を羽ばたかせ、辛い現実からのひとときの救いとなる。この世界のどこにでもシーオはいるのだと思う。

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