映画「シンシン/SING SING」 | 日々の雑記
映画「シンシン/SING SING」

映画「シンシン/SING SING」

映画「シンシン/SING SING」

ニューヨークのシンシン刑務所で収監者たちが参加する演劇プログラムがある。「芸術を通じての更生(RTA)」を目指し、収監者たちが創造的な表現を通じて希望や変革を見出すプログラムだという。実際にこのプログラムに参加した元収監者たちの再犯率は3%以下であるという。刑務所での生活というと体操とか労働とか職業訓練しか思い浮かばなかったので、演劇プログラムがあることが驚きだった。

映画はこのプログラムの参加者を中心に、刑務所施設や収監者たちの生活を描き出す。刑務所の各個室が割と広くて私物がいっぱいあり、隣の部屋とは円窓越しに会話も出来る。意外と自由なのに驚いた。
また出演者の多くが元収監者で、実際にこのプログラムの参加者だったという。刑務所のあり方を考えさせられた。懲らしめのために閉じ込めるだけでなく、再犯を防ぐための更生プログラムが大切なのだと感じた。この試みは日本ではなされていないのだろうか。

練習では脚本読みだけでなく、身体を使ったり目を閉じて想像したり、さまざまな課題をこなしている。それらを見ていると、これは演劇を通して自分を見つめ直すプログラムだなと感じた。幸せだった日々の思い出や、大好きな家族を悲しませてしまった後悔など、とても素直に自分の内面を吐露している。もちろん最初からみんながすんなり馴染んだわけではないだろう。そのことは新しく参加した暴れ者のデイヴァイン・アイ(最初は態度が悪かった)が、回を重ねて変化してくる様子でわかる。

リーダー格のディヴァイン・Gは、プログラムの立ち上げから参加しているようで、自分で脚本も書き仲間たちの面倒見も良い。どうも彼は無実の罪で服役しているらしく、再審要求?(ここは正確なことは分からなかった)もしている。そしてディヴァイン・アイの仮釈放の申請の手助けもしてやり、その甲斐あって彼の仮釈放が決まる。

それと反対に彼自身の再審要求(あるいは仮釈放?)は却下される。この時の審査官らしき人たちとのやりとりが酷かった。審査官は最初からすごく感じ悪かった。彼が申請しているせいで「業務がとても複雑で忙しくなってるの知ってます?」って、え?それをきちんと精査するのがあなたたちの仕事じゃないの? 犯罪者のくせにおとなしくしてればいいものを、こちらの仕事を増やしやがって、と言わんばかり。そして彼が自分の誇りである演劇プログラムのことを勢いこんで話し出すと、途中で遮って彼を傷つける言葉を吐く。気の毒に彼は誇りを傷つけられ、丁寧に作成した提出書類を突き返され、希望を打ち砕かれる。自暴自棄になっても仕方ない。
そんな彼を救ったのがディヴァイン・アイ。救われた彼が今度は彼の救いになる。このプログラムがあって、仲間たちがいてよかった。

最後に実際の演劇上演の様子が映しだされたり、出演者の紹介の「as himself 」の多さに驚いた。あの人もこの人も元収監者だったのか。ディヴァイン・アイもそうだった。
ディヴァイン・Gとマイク・マイクは俳優が演じていたけど、他の収監者たちと違和感なくとけ込んでいた。
演出家も俳優だったけど、この人が高圧的なところもなく、収監者たちとの信頼関係もあり、穏やかでとても素敵な人だった。パンフレット読むと、この俳優さんは耳の不自由な両親に育てられアメリカ手話に堪能とのこと。ロサンゼルスの法廷で40年も手話通訳してきたので、刑務所でどんな扱いを受けるか知っていたという。これは演出なのだろうけど、収監者への接し方が偏見のない自然なものだったのは、そのせいもあるのかと思った。

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