映画「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」

映画「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」

映画「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」
川上泰徳/監督 2025年

OttOにて鑑賞 2025年11月14日

中東ジャーナリストの川上泰徳さんが、2024年7月上旬から8月上旬までの約1ヶ月間、パレスチナとイスラエルを取材した記録映画。
驚いたのは「壁」がガザを封鎖している壁のことではなく、ヨルダン川西岸地区に築かれている「壁」だったこと。ガザが壁により封鎖されていることは知っていたが、まさか西岸地区にもあったなんて知らなかった。本当に自分は何も知らなかった、知ろうとしていなかったのだと恥ずかしい。これって普通に違法じゃないのか?ガザの封鎖にしてもなぜ世界は黙って見ているのか?

ヨルダン川西岸地区とイスラエルを分断する700キロの壁。タイトルの「外側と内側」とはいったいどちらのことか疑問だったが、パレスチナが外側、イスラエルが内側だという。壁を築いた側のイスラエルから見ればそうなのだろう。取材もイスラエル側からしか入れないのだから、そういう呼び方になるのは当然なのだろうけど、なんかモヤモヤした。

西岸地区の都市へブロンではモスクとシナゴークが隣接していた。もともとこのパレスチナはユダヤ教キリスト教イスラム教の聖地である。だから元々はずっと共存して暮らしていたはずなのだ。どうしてその共存が続けられなかったのか。シオニストたちがこの地を独占しようとしたから。そしてそれを世界が看過し後押ししたから。今の悲劇はわたしたちみんなに責任がある。

その後監督は西岸の地区のマサーフェル・ヤッタに入る。映画「ノー・アザー・ランド」の舞台だ。この撮影の時はまだ映画は公開されていなかったという。そこで見た光景は「ノー・アザー・ランド」と同じだった。理不尽に家を破壊され、家畜を奪われ、暴行され酷い怪我を負わされる。そしてここでも井戸を壊され、学校を壊される。なぜ学校を壊すのか、それは教育が大切だからだ、と語る男性の言葉が胸をうつ。子どもたちから希望も未来も奪い取ろうという、イスラエル側の残酷さが感じられる。何度も家を壊され、再建する為の道具まで撤収され、心が折れそうになる。それが狙いなのだろう。それでも懸命にこの地で生きていこうする人々は何度もたち上がる。家が破壊されたので、洞窟住居で暮らす人もいる。「この家なら壊されないよ」と笑顔で話す。そして抗議は合法的に裁判所に訴える。しかしイスラエルの裁判所、法律なのでパレスチナ側に勝ち目はない。

一方で壁の内側、イスラエル側の取材もあるのが、「ノー・アザー・ランド」との違いで、そこがこの映画の大きな成果。イスラエルの独立系メディアの責任者が語る「世界中がイスラエルがガザで何をしているか知っているのに、当のイスラエル国民は知らない」の言葉に驚く。イスラエルのメディアではハマスの攻撃、イスラエル兵士の死、人質のニュースしか発信されないという。自国がガザに対して攻撃していることは報道されない。知ろうと思えばガザの惨状はいくらでも知ることが出来るのに、自分たちが加害者である事は敢えて知ろうとしない。それはイスラエルに限らない。人は自国の不都合なことは知りたくないものだ。
それでも若い世代では真実を知り、兵役を拒否する者もいる。そこにほのかな希望が見える。またイスラエルのNGOによる援助活動もあり、そういう人たちもいるのだと少しほっとする。ただこの動きが国民全体のものにはなっていないのが辛い。兵役拒否の若者を罵倒する人もいる。もっともっと多くの人々に広まらなければ、結局は小さな抵抗で終わってしまい、最悪潰されてしまうのではないかと心配にもなる。

取材する対象が重なる部分もあるが、違う部分もあり、そこが「ノー・アザー・ランド」より少し希望があるように感じられる。そうあってほしいという監督の思いは伝わってくるけれど、今もっと悲惨な状況になっていることを思うと、無力感に苛まれてしまう。

アラビア語が出来る監督だから、通訳を介さず自分の言葉で語り合え取材できたことが、映画に説得力を与えている。

見たのはずいぶん前のことで、衝撃が大きくて感想がまとめられないまま時間がたってしまった。そのうちだんだん記憶が薄れてきて、思いの強さもだんだん小さくなってきてしまう。とりあえず今書けることだけは残しておこうと思った。

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