『リチャード三世』関連

『リチャード三世』関連

来月の読書会の課題書が『リチャード三世』なので、その関連のものを並べてみた。『ヘンリー6世』は図書館本。

最初に読んだ「リチャード三世』は図書館で借りた白水Uブックスの小田島雄志訳だった。

課題書は角川文庫の『新訳 リチャード三世』(河合祥一郎・訳)で、台詞のリズムや韻をなるべく原文に近づけようとしてあって、読んでて小気味よかった。

うちにあったのは松岡和子訳で、こちらはこれから読むつもり。

『時の娘』(ジョセフィン・ティ)は、ミステリー作品としてかなり前に読んだ作品で、これが1番最初に読んだ「リチャード三世」ものだった。その後もう一度読んで、今回3回目。

シェイクスピア関連書の『深読みシェイクスピア』(松岡和子)には、リチャードとアンの場面の解説があって興味深く読んだ。

『ヘンリー六世』白水Uブックス 小田島雄志・訳)は↑の河合祥一郎さんの解説で、『リチャード三世』は『ヘンリー六世』の続編で、すでにリチャードの描写がかなりある、というので読んでみたくなって図書館から借りてきた。

もともと『リチャード二世』『ヘンリー四世』『ヘンリー五世』は同じ白水Uブックスで読んでいた。
なぜかというと、イギリスのテレビ映画「The HOLLOW CROWN」を見たくてその予習として読んだのだ。だって、リチャード二世がベン・ウィショー、ヘンリー四世がジェレミー・アイアンズ、ヘンリー五世がトム・ヒドルストンという、これはわたしのための映画ですか?という配役だったんだもの。おまけに見始めたら「リチャード二世」に登場するヘンリー・ボリングブルック(のちのヘンリー四世)がローリー・キニアだったので、驚愕して歓喜した。ますますわたしのための映画だった。(どう考えてもローリー・キニアが成長してジェレミー・アイアンズになるのはあり得ないのだけれど、まあそんなことはどうでもよろしい)

当時(2015年)どうしても見たくて無謀にも日本語字幕もつかない海外DVDを購入したので、当然台詞は聞き取れないし字幕は英語しか出ない。そこで少しでも理解の助けになると思って本を借りてきたのだ。少なくとも何が起こっているかぐらいは、分かるだろうと考えたのだが、うっかりしてたのは、これは舞台劇ではなくてあくまでもドラマだったこと。台詞は戯曲そのままではないし、「リチャード二世」では需要な人物が原作とは違って混乱した。

この後ちゃんと日本語字幕のついたDVDが発売されたので、もう少し待てばよかったのだけれど仕方ない。またこのシリーズのあと第2シーズンで「ヘンリー六世」と「リチャード三世」(ベネディクト・カンバーバッチ主演)も作成され劇場公開もされたけれど、そちらは未見のまま。

その第2シーズンの前にアル・パチーノの「リチャードを探して」という作品を知り、「リチャード三世」を知りたくてDVDを買った。こちらは日本語字幕がついていた。この映画を見た後に原作を読んで、あ、これがあの場面かと思ったのだ。この映画は戯曲そのものを映画にしたわけではなく、映画を作る過程を見せていて、劇自体は抜粋場面だけだった。それでもとても面白かった。できればこの配役で全編通した映画を見たかった。久しぶりに見たけどやっぱりおもしろかった。でもせっかく有名なシェイクスピア役者や学者にもインタビューしてたのに、誰が誰かわからなかったので、その説明の字幕をつけて欲しかった。何の説明書もついていない、DVD一枚入っていただけの廉価版だったからかも。ちゃんとしたDVDなら説明書もついていたのかもしれない。
「さとうきび畑」について

「さとうきび畑」について

 リリアのコンサートがきっかけで「さとうきび畑」をしみじみと聴いているこの頃、この歌を初めて聴いた時のことを思い出している。正確には「聞こえてきた」のだが。
高校1年か2年の時だったので1969年か1970年頃。当時2階の2部屋のうち6畳か8畳間を兄と弟が使い、私はその隣の4畳半を使っていた。襖で仕切られていただけだったので、隣の音はお互いによく聞こえていた。きょうだいの中で1番音楽好きだった兄がよくレコードをかけていた。ジャンルはクラシックからポピュラー、フォーク、イージーリスニング等々、いろいろだった。おかげでいろいろな音楽をちょっとずつ聞きかじることができた。特にポール・モーリアはよく聞こえてきていた。そんな兄が当時ファンだったのが森山良子で、彼女の歌も時々聞こえてきていた。そんな中で印象に残ったのが「さとうきび畑」。当時はタイトル名も知らずに、ただ襖の向こうから流れてくる歌声だけを聞いていたのだが、最初は驚いた。何度聞いても「ざわわ ざわわ ざわわ」としか聞こえないのだ。それが何回も何回も繰り返している。「ざわわ」って?もしかしたら「沢は」って言ってるのかな?と思ったが、どう聞いても「ざわわ」なのだ。意味のある歌詞もあるのだが、すぐまた「ざわわ」に戻るので、もう「ざわわ」しか頭に入ってこなかった。ちゃんと兄に聞けばよかったのだろうけど、なんとなく聞かないままにきてしまった。(当時は兄とそれほど仲良くなかったから)
その歌が「さとうきび畑」であることを知ったのは、いつの頃かはっきり覚えていない。いろんな人が歌ってるし、いつのまにかたくさんの人に知られた反戦歌の名曲になっていた。
調べてみると、1969年に森山良子の「カレッジフォークアルバムNo.2」に収録されたのが、初めてのレコード化という(Wikipediaより)。時期的にわたしが聞いていたのはこのアルバムだったらしい。兄の部屋でこのアルバムは見た記憶はないのだが、同じ年に発売された「森山良子イン・ナッシュビル」は見た記憶がある。(もしかしたらこの歌のこと知りたくて兄の部屋にこっそり入ったのかな)この間兄に会った時このことを話したら、当時のレコードはまだ持ってると言ってたので、いつかもう一度聴く機会があるかもしれない。ただこの時の歌は全部通しての収録ではないかもしれない。全部で11連あり全部通して歌うと11分にもなるので、たいていは抜粋して歌われるらしい。


そんなふうにこの歌のことを思っていたら、昨日(9/24)と今日(9/25)の東京新聞に、この歌を初めて歌った田代美代子の記事が載っていた。「私の東京物語」という全10回の連載コラムの、第5回と6回分だ。確かにWikipediaでも最初に歌ったのは彼女だと言う記述があったのだが、田代美代子というのが意外だった。彼女は和田宏とマヒナスターズと組んで「愛して愛して愛しちゃったのよ」という、歌謡曲というかお座敷ソングっぽい歌を歌っていた歌手という認識だったから。確かテレビドラマにも出ていた。でもこのコラムの初回から読むと彼女は元々石井好子に師事したシャンソン歌手だったという。「さとうきび畑」の作者寺島尚彦が石井好子の後輩で、彼女のピアノ伴奏も務めていた。その縁だからなのか、1967年5月23日に田代美代子のコンサートで、完成から間もないこの歌が歌われたという。作者は「初演の日」という一文で「この歌は田代美代子さんの唇からこの世に出ました」と書いているという。素敵な言葉だな。この歌が生まれた経緯も書いてあって、このコラムが今このタイミングで読めるのが、なんか不思議な気がする。


そしてさらに、昨夜のNHKの音楽番組「SONGS」の出演が森山良子だったのに驚いた。なんというタイミング。昨夜は見逃したのだが、もしかしたら「さとうきび畑」も歌うかもという期待でNHKプラスで見た。番組内での歌唱はなかったけれど、ゲストの森山直太朗が選んだ「マイベストRYOKO」3曲の中の一曲として「さとうきび畑」が紹介されていた。初めて歌ったのが22歳の時で、その時は「自分のような戦争も知らないでのほほんと生きてきた人間が歌っていいのかと悩んだ」そうで、それが年月を経てある時(1990年頃)母親から「あなたには歌うべき歌があるでしょう」と言われたという。それがこの歌のことだったという。

同じようなことが田代美代子のコラムでもあった。「流行歌を歌うような歌手が反戦歌を歌うなんて」という声があって、それに対して彼女は「どちらの曲も私にとって大切な曲です」と言ったという。歌を差別するような発言は看過できないと。このコラムの中で、彼女が初めて歌った時から2年後に「森山良子さんがレコーディングし、じわじわ知られるようになった」「ジャンルにとらわれず、広くメッセージを伝え続けてほしい名曲」と書いている。



初演の田代美代子、初レコード化の森山良子、その他にもちあきなおみもカバーしているという。鮫島有美子も歌っていた。だからなんとなく女性が歌う歌という印象があったけど、「リリア音楽ホールで聴く日本の歌」コンサートの男性たちの歌唱もとても素晴らしい。ラストに1人ずつ「ざわわ」「ざわわ」「ざわわ」と歌いつぎ、合唱で「この悲しみは消えない」と歌い終わる。本当にジャンルにとらわれず、たくさんの人に歌い継がれていってほしい曲だ。
「リリア音楽ホールで聴く日本の歌 SEASON2」

「リリア音楽ホールで聴く日本の歌 SEASON2」

「リリア音楽ホールで聴く日本の歌 SEASON2」
7/25 川口リリアにて鑑賞
 「〜人気実力を兼ね備えた3人の歌手による〜」 このコンサートは、2015年の第1回から、リリアの改修期間を除いてほぼ毎年開催されていて、今回が10回目となる。リリアのリニューアルに合わせてか、今回から「SEASON2」となり、メンバーも入れ替わった。以前はバリトンの加耒徹さんと坂下忠弘さん、テノールの田代万里生さんの3人だったが、今回はカウンターテナーの村松稔之さんが坂下さんと替わった。坂下さんも含めた3人のコンサートを2018年と2019年に鑑賞して、また3人に会えると楽しみにしていたので、ちょっと淋しく感じたが、カウンターテナーの声を生で聴いたことなかったので、それはそれで楽しみではあった。

期待通り素敵なコンサートだった。深く重厚な声で安定の上手さの加耒さん、全身を使った見せ方が上手く、会場を曲の世界に染め上げる万里生くん、美しい高音で圧倒される村松さん、それぞれが素晴らしかった。村松さんがトークでオタオタしてる姿も初々しく、それを上手く切り返しリードする加耒さん万里生くん。この3人が歌った「さとうきび畑」が圧巻だった。10分を超えるこの歌を生で聴けて幸せだった。

もう結構時間が経ってるので記憶が薄れてしまっているが印象に残った歌をいくつか。
「曼珠沙華」(北原白秋・作詞)まさか白秋のあの詩を歌で聴くなんて!とびっくりした。歌唱は村松さん。
「すいぞくかん」(谷川俊太郎・作詞)加耒さんが魚のように口を開けて「ぽわっ」と言うのが楽しかった。
「荒城の月」加耒さん本当に上手いなあ。
「少年時代」まるで麦わら帽子の少年の姿が目に浮かぶようだった。ちょっと涙が出そうになった。

なんかやっぱり加耒さんの歌が1番印象に残ってる。とにかく上手いもの。加耒さんが歌う井上陽水をもっと聴きたいなと思った。娘は「氷の世界」が聴きたいと言う。


3人の「さとうきび畑」がよかったので、帰宅してから以前購入したCD「リリア音楽ホールで聴く日本の歌」を久しぶりに聴いた。「さとうきび畑」が入ってる。この時は坂下さん加耒さん万里生くんの3人だった。会場での生の歌声はもちろん素晴らしかったけど、好みだろうけど、むしろこちらの方が好きかな。声のバランスがこちらの方が良い気がする。
映画鑑賞記録 8月

映画鑑賞記録 8月

⭐︎OttOにて鑑賞

8/3 「父と家族とわたしのこと」 島田陽磨/制作 監督 撮影  2026年 日本
  戦後帰還した元兵士のPTSD問題。長らく放置されてきたこの問題、その苦しみは元兵士だけでなく家族にも深刻な影響を与えた。兵士たちが抱えたトラウマは、DVや依存症という形で子や孫へと受け継がれるケースもあるという。映画は過去に虐待された過去を持ち、大人になり今度は家族に暴力を振るってしまう自分の姿に苦悩する3人を取り上げる。彼らが葛藤しながらも自分を虐待した親たちの足跡を追い、自身の生きづらさと向き合っていく姿を追っていく。見ていて本当に辛く苦しかった。少しでもこの人たちの心が安らかになってほしい。
戦争に行くということは敵を相手を殺すこと。何も考えずただただ命令に従い人を殺す人間を作り出すのが戦争。それは今の世界でも続いている。

8/10 「エレノアってグレイト。」 スカーレット・ヨハンソン/監督 2025年 アメリカ
  親友を亡くし娘と同居することになった90歳のエレノア。母親を亡くしたばかりの学生のニナ。思いがけないきっかけで知り合った2人が交流を深め、大切な人を失った悲しみを共有し、それぞれ新しい希望へ歩き出していく素敵な話だった。ホロコーストの話題はかなりきつかった。

8/22 「リターニーズ RETURNEES〜元子ども兵 それぞれの再起〜」 菊池 啓/監督・撮影・編集 2026年 日本
   アフリカのウガンダ。1980年代後半から約20年間内戦が続き、1990年代から反政府武装勢力「LRA(神の抵抗軍)」は3万人以上の子供を誘拐して兵士にしたり、その妻として強制結婚させたりした。教育も受けられず恐怖に支配され命令に従い、ただ戦ってきた彼らは、せっかくLRAから逃れてきても家族からも厄介者扱いされ、社会復帰は難しい。そんな彼らの社会復帰の支援をしている日本のNPOテラ・ルネッサンスの活動を記録した映画。
誘拐された被害者でありながら、兵士として村を襲ったり新たに子どもを誘拐して兵士にする、加害者でもある彼ら。彼らが保護され社会復帰の訓練をしているテラ・ルネッサンスの施設には誘拐した者、された者、殺戮を命じた者、命じられた者、それぞれが一緒に生活している。平気なのかなとちょっと複雑な気持ちになった。大きい意味ではみんな被害者なんだけど。ここを卒業して社会復帰を果たした人も出てくるし、これから仕事を始めようと計画している人もいる。みんな無事に社会復帰して笑顔で暮らせるようになってほしい。テラ・ルネッサンスはウガンダだけでなくコンゴでも新しく事務所を立ち上げた。この映画で初めてテラ・ルネッサンスを知ったが、本当に頭が下がる。どうか彼らの活動が実を結びますように。

8/25 「そして彼女たちは」 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/監督 2025年 ベルギー=フランス
   ベルギーにある母子支援施設で共同生活をしている若い(本当に若い!みんなまだ10代、15歳の子も)母親たち五人の群像劇。彼女たちがどういう経緯でここで暮らしているのかという説明はないが、何か事情があってこの施設にいることはわかる。出産前の少女もいれば、一緒に暮らすはずだった恋人に逃げられた少女、生まれた子どもを養子に出す決心をしている少女、恋人と子どもと一緒に住む計画を立てているが精神的に不安定な少女、それぞれの状況が描かれ見ていて辛くなる。1人希望の職を得て赤ちゃんと共に卒業していく少女がいて、彼女の送別会の場面が楽しそうでよかった。こういう支援施設は民間なのか公立なのかわからないが、共同生活しながらスタッフが身体的精神的にサポートしていて、出産後の生活の目処が立つまで(期限はあるみたいだが、たしか1年だったか?)いられるのはいい。未成年の出産という不安定な状況に置かれた若い少女たちが、少しでも明るい未来へ進んでいけるようにと願う。


⭐︎彩の国さいたま芸術劇場 映像ホールにて鑑賞
 
 8/6 ナショナル・シアター・ライブ「インター・エイリア」
  久しぶりのNTL鑑賞。県内では見られないと諦めていたので嬉しい。
「インター・エイリア」とは「その他のことの中で」というラテン語で、法律用語という。本作では働く女性たちが日々の暮らしをどのようにやりくりしているかの象徴として用いているという。
確かに主人公のジェシカは判事の仕事をしながら、妻、母親、という家庭のことにも忙しく取り組んでいる。演じるロザムンド・パイクが序盤から出ずっぱりでとにかくひっきりなしに喋り動き回るので、見ていて疲れてきた。でもこれが彼女の毎日なんだなと体感できる。こんなの疲れるよ〜。優秀な判事なのに家庭では夫に気を遣っている姿は、欧米では男女格差が日本ほど無いと思っていたので、ここでも同じなのかと愕然とした。男性ならこういうこと(その他のこと)に気を使う必要ないのは、日本でも世界でも同じなのだ。妻の昇進に対しての態度で器の小ささを露呈した夫だが、終盤の泣き崩れる姿には世間に根強い「男はこうあるべき」という規範に縛られて古い感覚をアップデートできない哀れさも感じた。
息子の性暴力事件に直面したときは、いつもの被害者を守るべき職務よりも母親としての私情が勝りそうになる。これはきつい。どうなるかハラハラしたけれど、息子の正しい選択にほっとした。これからが母親として判事として、辛い日々がはじまるのだろうが、逃げずに進んでいくことを信じる。


⭐︎WOWOW放送で鑑賞

映画「入国審査」 アレハンドロ・ロハス ファン・セバスティアン・バスケス/監督 2023年 スペイン
  アメリカへ移民ビザで入国しようとしたカップルが、空港の別室で審査官の執拗な質問を受ける。狭い部屋での圧迫感閉塞感に、見ている間中もうずっと息苦しくてたまらなかった。何が問題なのか?審査官の「自分の判断で決まる」という脅し文句も怖いし、そんなこと聞く?というような細かい質問がネチネチと次々に出される。ダンサーだという女性に「踊ってみせろ」と言うのなんか、ただの嫌がらせとしか思えない。男性の方に何かありそうなことがわかってくるけど、本来なら話し合いで解決できそうなのに、こんな形で暴露されたらこの後どうすればいいのさ。責任取れよ審査官たち。最後は思い切りよくズバッと映像が断ち切られてびっくりした。この後は見る人の想像に任せますってこと? 審査官は規則に従ってやってるだけなんだろうけど、基本的に移民をなるべく受け入れないようにしているように見えてしまった。それは日々のニュースで見聞きする日本の入管のやり方と同じだ。だからよけいにしんどかった。


映画「決断するとき」 ティム・ミーランツ/監督 2024年 アイルランド
   クレア・キーガンの『ほんのささやかなこと』の映画化。原作も静謐で深い感動作だったけど、映画もとてもよかった。常に画面が暗く凍えそうな冷たい空気が伝わってくる。いつも何かに耐えるような顔をしているキリアン・マーフィーを見てるだけで、息が詰まりそうになってくる。貧しくとも妻と五人の娘との生活を大切にし、真面目に正直に生きている彼が、修道院の秘密を知った時の苦悩。悪名高きマンダレン洗濯所、こういう場所が1996年まで実在していたとは。修道院長役のエミリー・ワトソンとの対面では怖くて怖くてたまらなかった。見て見ぬふりをしていれば、ささやかな幸せを守り平穏な生活が送れただろうに、これからの彼と彼の家族にどんな事態が降りかかるか考えると辛い。でもずっと暗い顔だったキリアン・マーフィーが、ラストで少女に見せた笑顔に希望があると思いたい。
   

  

『シュトヘル』

漫画『シュトヘル』全14巻 伊藤悠/著 小学館 2009年〜2017年

  『天幕のジャードゥーガル』を読んでいて、遊牧民ナイマン族のドレゲネが嫁ぐことになったメルキト族のことを、侍女から「北の森に住んでいて弓の名手(メルゲン)が多く、メルゲンの民だから“メルキト“なんだとか」と説明されていた。
その「メルゲン」で、ああ〜『シュトヘル』のハラバルだ!と興奮した。
モンゴル族に追従したツォグ族の族長の息子ハルバルは、弓の名手で「神箭弓(メルゲン)」と呼ばれていた。主人公格のユルールの兄でシュトヘルとも因縁深く最終巻まで活躍する。
物語の舞台が時期的に『天幕のジャードゥーガル』の序盤と重なるせいか、『ジャードゥーガル』がアニメ化できるなら『シュトヘル』も!という声が上がっていたっけ。

この機会に久しぶりに読み直したけど、結構忘れていて新鮮に楽しめた。悲惨な状況がたくさん続き残酷な場面も多かったけど、終わってみれば意外とハッピーエンドだったような気がする。
「メルゲン」の他にも思い起こしたのが、ヴェロニカさん。「ジャードゥーガル(魔女)」といえばファーティマたちより断然ヴェロニカさんの方が「魔女」っぽかったなあ。色っぽいし。

アニメ化はちょっと無理かなあ。作画が迫力あり残虐場面がたくさんあり、あれがカラーアニメで表現されるとちょっと目を覆いたくなる。『ジャードゥーガル』は原作があの絵柄だから良かったんじゃないか。
『コカチン 草原の姫、海原をゆく』

『コカチン 草原の姫、海原をゆく』

『コカチン 草原の姫、海原をゆく』 佐和みずえ/著 トミイマサコ/絵 静山社 2022年
  モンゴル帝国皇帝フビライ・ハンの娘コカチンが、イル・ハン国の王に嫁ぐことになり、その18ヶ月の航海を描いた冒険ファンタジー。最近『天幕のジャードゥーガル』でモンゴルに興味を持っていたので読んでみた。
まず、この物語が史実を元にしていることに驚いた。著者のあとがきで、マルコ・ポーロを調べていてこの姫のことを知ったとある。なるほど確かにWEBでマルコ・ポーロを調べると、彼女のことが載っていた。コカチンはコケジンとも呼ばれ、コケジンはWikipediaにイル・ハン国8代君主ガザン・ハンに嫁いだとあり、マルコ・ポーロが彼女の旅の付き添いで一緒に旅をしたという。こんな史実があったことに驚いた。
旅の行程でさまざまな困難にあうけれど、めげずに立ち向かうコカチン。彼女は故郷モンゴルと祖先の人々を愛し敬っている。中でも彼女が幼い頃から憧れずっと尊敬し慕っているのが、チンギス・ハンの妃のクラン。おお、この人は天幕のジャードゥーガル』で知ったメルキト族のクランだよね!コカチンによると、1番愛された妃で、チンギスのどの遠征にも加わり、たくましく戦ったという。おてんばの彼女が尊敬するはずだ。
(しかし戦ったのか?と思ったけど、モンゴルの女性は夫の遠征に従ってともに戦うこともあったらしい。Wikipediaの「モンゴルのホラムズ・シャー朝征服」の項目で、ニーシャプール攻撃時に戦死した司令官の妻が、その後の攻撃で陥落したニーシャプールの住民を、夫の復讐のため殺戮したという記述があった。この虐殺の話、『天幕のジャードゥーガル』でシタラたちがモンゴルに連行されていく途中で聞かされていた)

クランはチンギスの第2妃だったし、ホラムズ・シャー遠征軍に同行していたというので(Wikipediaより)確かに1番愛されたと言えないこともない。『ジャードゥーガル』でまるで人身御供のように嫁いだ印象だったので、まさか第2妃という地位にいるとは思わなかった。大切にされていたのかな、ならよかったな。ダイル様、よかったね。
でもこの作品中のクランは遠征中に亡くなってそこに葬られているというのは、作者の創作なのかな。『ジャードゥーガル』ではチンギス亡き後、オゴタイにレヴィレート婚で引き取られたとあるので。

どうしても『天幕のジャードゥーガル』に引きずられて、ちょっと物足りなく思ってしまったけれど、史実と創作をうまく組み合わせて楽しい物語になっていた。

作品の紹介が新聞に載っていた

https://www.asahi.com/articles/ASQ6872HGQ62PTLC01F.html
『時の娘  ロマンティック時間SF傑作選』

『時の娘  ロマンティック時間SF傑作選』

『時の娘 ロマンチック時間SF傑作選』 ジャック・フィニイ、ロバート・F・ヤング他/著 創元SF文庫 2009年
   ジョセフィン・ティの『時の娘』を読んでいた時、図書館で同じタイトルの本書を見かけ思わず「新訳が出たのか?」と興奮したけど、副タイトルで違うと分かった。でも時間SFだし著者にジャック・フィニイもいるし、借りてきてしまった。
 9編のうち、やはりフィニイの「台詞指導」とヤングの「時が新しかったころ」がおもしろかった。 
 なんかまたヤングの「たんぽぽ娘」が読みたくなって本棚から出してきた。

『たんぽぽ娘』 ロバート・F・ヤング/著 伊藤典夫/編  河出文庫 2015年
  「たんぽぽ娘」は以前読みたくて、でも市の図書館にはなくて、県内の他の図書館から取り寄せてもらい読んだことがある。その時は確か風見潤の編集のアンソロジーで、集英社コバルト文庫だったような記憶がある。河出文庫で刊行された時は嬉しくてすぐ購入した。
「たんぽぽ娘」の印象が強すぎて他の作品も読んだはずだけど、まるっきり記憶にない。今回読んだら「たんぽぽ娘」も最初ほどの感激がなくて、わたしも歳をとったせいかとしんみりしてしまった。「若さと美」の感覚に自分とのズレを感じてしまった。でも、やはりこれが作者の代表作なんだなあ。
天幕のジャードゥーガル 

天幕のジャードゥーガル 

アニメ「天幕のジャードゥーガル」が12回で終了した。予想通り原作の25幕までだった。ここが一応第1部終了っぽいから妥当だと思う。原作はまだ完結してないが、完結後にアニメの続編が作られるのではないかと期待している。エンディング曲の後に原作の26幕の内容が一部挿入され、これからの嵐の始まりを予感させて終わったので、これは絶対続編ありそう。
放送時間が遅いのでいつも録画して見ているけど、その録画の中で第6回のドレゲネの過去編、ダイル様の祈祷場面が素晴らしくてずっと録画が消せないでいる。漫画のあの場面が、カラーで動きと音が加わり、アニメでこそ表現できた美しさだった。漫画だと黒髪だったダイル様が、グレイヘアのイケおじで、声も素敵だった。声優さんには詳しくないのだけれど、石田彰さんという有名な人らしい。


『天幕のジャードゥーガル』既刊6巻
  トマトスープ/著 秋田書店 2022〜2026年
  原作の単行本は第42幕6巻まで刊行されている。連載されている漫画サイトSouffleでは、第44幕が最新話。しばらく休載してたけれど、第6巻刊行後に連載再開され楽しみに読んでいる。連載で読んでいると、最新話の掲載時に前回までの話は読めなくなってしまうので、ついつい内容を忘れてしまう。単行本になりまとめて読んでようやくわかる、ということを繰り返している。

『もっと!天幕のジャードゥーガル』
  谷川春菜 トマトスープ/著 秋田書店 2026年
  Souffléでは原作の補完として『もっと!天幕のジャードゥーガル』という、谷川春菜さんのコラムも掲載されている。それをまとめたものが6巻と同時に発売された。登場人物の紹介、各巻のあらすじ、地図、モンゴルの歴史や文化、など副読本としてとても役立つ。参考文献リストもある。さらに、メルキト族のクルトガンのその後を描いた描き下ろし漫画も掲載されている。

雑誌「ユリイカ」2026年7月号 特集「天幕のジャードゥーガルの世界」
   ちょっと専門的すぎて難しいものもあったけど、とても読み応えのある1冊。谷川春菜さんによるブックガイドも充実している。『もっと!天幕のジャードゥーガル』でも取り上げられていた参考文献が、それぞれの内容の説明文もついていて、よりわかりやすい。
読書記録

読書記録

体調と毎日接するニュースに心が疲れてしまって、7月以来2ヶ月近く更新していない。
その間も本は読んでいたので、せめて読書記録だけでも書いておこう。

『水車小屋のネネ』 津村記久子/著 毎日新聞出版 2023年
  18歳と10歳の姉妹。本来なら親から保護されなければならない彼らが、自分を守るために2人で暮らすことを選ぶ。こんな良い人々に出会えるのはほとんど奇跡のようだと思うけど、でも現実の世界が酷すぎる今、この優しい世界に癒される。

『物語を継ぐ者は』 実石紗枝子/著 祥伝社 2024年
  中学生の主人公は急逝した伯母が自分の愛読書の作者だったことを知る。中断した物語の続きを自分で書こうと決め、そのために伯母の人生を知りたいと思う。

『花野に眠る』『星合う夜の失せもの探し』 森谷明子/著 東京創元社 2014年 2023年
  2005年の『れんげ野原のまんなかで』の続編が出ていたなんて知らなかった。2作とも「秋葉図書館の四季」という副題がついていた。図書館の中の話よりも利用者の話がメインなので少し物足りなかった。でも図書館開館前の「本が無くなる」という心配や(実際うちの図書館では新刊オープンの時、本を並べる準備が間に合わなくて、開館初日の閉館後書架がガラガラになった)古い児童書を寄贈してもらうことになり、その内容に興奮する様子に「わかるわかる」と思わず笑った。

『みんなが手話で話した島』 ノーラ・エレン・グロース/著 佐野正信/訳 早川書房(ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 2022年
  かつて住民の誰もが手話で話していたという、アメリカ・ボストン南部の島、マーサズ・ヴィンヤード島。遺伝性聴覚障害者の多く生まれたこの島で、誰もがごく自然に手話で会話し生活していたという。文化人類学者による住民への聞き取り調査の様子で、住民同士が聾者のことを特別に意識せずに生活していたことがわかる。こういう場所があったのだという驚きと、今の様々な差別に溢れる現実との対比にやりきれない思いを持った。
『デフヴォイス』シリーズの傑作「静かな男」でも、そういうみんなが手話で話す地域があった。
この島を舞台にした児童書の『目で見ることばで話をさせて』(アン・クレア・レゾット著)シリーズがある。

『夢見る言葉 デフ・ヴォイス』 丸山正樹/著 東京創元社 2026年
  このシリーズもこれで完結。今までどうしても浮いていたみゆきと荒井の関係がようやく納得いくものになってホッとした。聾学校についての現実の裁判に取材した最後の話はとてもよかった。作者はこういうところはとてもうまい。荒井の最後の陳述「私たちのことを、私たち抜きで決めないでください。」これがすべてだと思う。聾教育だけでなく様々なことに通じる。

『遺骨と祈り』 安田菜津紀/著 産業編集センター 2025年
  フォトジャーナリストの著者が、2018年2月から2024年11月まで、福島、沖縄、パレスチナをめぐり、不条理を強いられ生きる人々の姿を追った6年間の記録。
帯にある「死者を蔑ろにする社会が、生きた人間の尊厳を守れるのか?」言葉が、鋭く胸に迫る。

『二つの国の物語 全1冊』 赤木由子/著 理論社 1995年(初出 第1部1966年 第2部1980年 第3部1981年)
  戦争中の悲劇を描いた作品は多いが、日本の加害者としての面まで描いた作品は特に児童書ではあまり見ない。これはそんな数少ない作品。満州に渡り、戦時中戦後を逞しく生き抜いた少女の話。

『ユリの便箋』 森川茂美/著 静山社 2026年
  大正時代の男女の双子、図案が好きなユリ、ファッションが好きな惺(さとる)。しかし図案科のある美術学校は男子のみ、裁縫学校は女子のみ、という学校制度の壁に阻まれる。見た目はそっくりな双子の2人は、お互いを取り替えてユリは惺として、惺はユリとして、自分の学びたい学校に通い出す。漫画的で痛快な話かと思ったら、時代と世間に翻弄され次第に重苦しくなってくる。結構重い話だったが、最後は希望が見える。

『コカチン 草原の姫、海原をゆく』 佐和みずえ 静山社 2022年
  元の皇帝クビライの娘のコカチンが、嫁ぎ先の遠いイル・ハン国まで旅をする。その行程を描くファンタジー。漫画『天幕のジャードゥーガル』が好きで、今アニメもやってるので、モンゴルの姫が主人公のこの作品に興味を持った。どうしても物足りなく感じてしまったけど、マルコポーロがいたり、チンギス・ハンの妃のクランのことが出てきたり、そこそこ面白かった。

『海を見た日』 M・G・ヘネシー/著 杉田七重/訳 すずき出版 2021年
  アメリカの里親制度についてはよく知らなかったので、この作品で少し触れることができてよかった。著者は実際に、ロサンゼルスの里親制度がうまく機能するよう、裁判所から任命されて活動する特別擁護者だという。だからこそ制度の問題点もよくわかっているのだろう。生育環境、特性がそれぞれ違う4人の子供たちが、ぶつかりながらも困難を乗り越え家族としての絆を深めていく描き方に、とても真摯で温かい目が感じられた。

『処刑館殺人事件』 西式 豊/著 早川書房 2026年
  人里離れた館、置いてある処刑道具、次々起こる残酷な殺人、起きている事は凄惨な事件なのに、なぜかそんなおどろおどろしさは感じず、むしろ爽やかで明るい印象なのは、やはり作者のお人柄かしらと思う。『そして誰もいなくなった』っぽさがあり、犯行の告白文が出てきた時は、はい出ました、と思ったし、でもこれで終わるはずないと思った。真相は言ってみれば身も蓋もない欲に駆られた犯行だった。「そんなことのために殺人を犯すミステリ作家などいない」というのはよかったなあ。いい終わり方でした。途中でハラハラした彼が無事でよかったねえ。

『そして、よみがえる世界。』 西式 豊/著 早川書房 2022年
  第12回アガサ・クリスティ賞、大賞受賞作品。巻末に審査員の選評が載っている。
一度読み始めて序盤の仮想現実の世界、ゲームっぽい用語がさっぱりわからず、どうしてもノレなくて挫折した。今回はわからないところはそのままで、とにかく読み通すことを課題にして頑張った。主人公が脊椎損傷者で四肢麻痺の障害者であるのがわかってからは(ここまでわずか20ページ、つまり前回はここまですら辿り着けずにいたのだ)だんだん面白くなって楽しめるようになった。障害者の介護にこういう技術が使えるようになると、介助者なしで自分の意思で自分の活動をある程度コントロールできる。これに近いことがいずれ可能になるんだろうか。わたしが生きてるうちは無理だろうな。ゲーム、推理、バトル、といろんな要素がてんこ盛りで、作者がとにかく好きなものを全部取り入れて書いたんだ、とちょっと感動した。

『あずかりっ子』 クレア・キーガン/著 鴻巣友季子/訳 早川書房 2025年
  『ほんのささやかなこと』の作者が2010年に発表した作品。映画「コット、はじまりの夏」の原作。 1人実家を離れ、預けられた夫婦のもとでひと夏を過ごす少女の話。少女の語りでたんたんと話が進む。(少女の名前さえ書かれていない)はっきりした事情はわからないまま、大家族の中であまり構われずにいて居場所のない思いをしていたであろう少女が、優しさとあたたかさに包まれ、生きる喜びを感じていく。とても静謐で深く心に染み入ってくる作品だった。

『図書館の魔女 霆ける塔』 高田大介/著 講談社 2025年
  『図書館の魔女』「図書館の魔女 烏の伝言』『図書館の魔女 高い塔の童心』に続く、待ちに待った本編の続き。待ちに待った割には買ってから積読のままだったけど。読み初めからもうマツリカが囚われ人となっていて、図書館の主マツリカが不在な中、今回はハルカゼをはじめ仲間たちの活躍が主に描かれる。ひとつひとつ丁寧に情報を集め、そこからマツリカの居場所を推理していく手法にワクワクした。マツリカが囚われの塔で、牢獄の番人側の紅花と交流するうちに、次第に打ち解けてくるのが楽しかった。早くキリヒト出てこないかと思ってたが、ほとんど最後の方にしか出てこないのでジリジリした。今回はマツリカ救出までの話だったので、ここからが“図書館の魔女“の出番だ!本領発揮!ってところで終わってしまった。早く続きが読みたい。

『ジンタルス RED ANBER』 皆川博子/著 河出書房新社 2026年
  御歳96歳の皆川博子の最新作。この歳で新作の発表、しかもすでに次作の執筆中とか、恐れ入ります。8月20日付の東京新聞の記事で、「94歳で死の淵から生還した。点滴したら回復して人生観が『生きてるっていいことだ』と180度変わった。書ける間は生きていたい」そうで。いやもうすごいなあ。どうぞずっと書き続けてください。たかが70歳過ぎたくらいで、もうしんどいあと何年生きられるか、なんて弱音を吐いていた自分が恥ずかしいです。
実在の人物ロシア帝国領のウクライナで農奴に生まれながら画家、詩人として大成したタラス・シェフチュンコに想を得て、主人公ミーシャが造形された。19世紀のロシアで農奴に生まれたのに、画家として作家として活躍したのすごいと思ったけれど、実際にそういう人物がいたのも驚きだった。ミーシャの運命が、以前なら酷いままで終わるところ、少し希望がある終わり方なのは、作者のこの経験(死の淵から生還)があるからだそう。酷いままでなくてよかったけど、年表読むと全くのハッピーエンドでもなさそう。ある人物が思いがけない行動していて、そこをもっと知りたいなと思った。
とりあえず記録だけー読書

とりあえず記録だけー読書

読んでも感想書いてない本がある。今さらかけないけど、とりあえず記録だけは残しておこう。

『その歌声は天にあふれる」ジャミラ・ガウィン/著 野の水生/訳 徳間書店 2005年
  18世紀イギリス。一部の富裕層を除き、劣悪な環境に置かれた子どもたちの、悲惨で残酷な運命が容赦なく描かれ、気分が悪くなるほどだった。安易なハッピーエンドではなく、歴史の暗部をしっかり伝えていこうとする作者の誠実さを感じた。

『グッゲンハイムの謎』ロビン・スティーヴンス/著 シヴォーン・ダウド/原案 越前敏弥/訳 創元推理文庫 2025年
 シヴォーン・ダウドの死後、著者がダウドの前作『ロンドン・アイの謎』の設定を引き継ぎ、続編として完成させた。言われなければダウド自身の作だと思うほど違和感がない。ダウドファンとしては嬉しい作品になった。

『ハティのはてしない空』カービー・ラーソン/著 杉田七重/訳 鈴木出版 2011年
 16歳の少女が見知らぬ土地で経験のない農地開拓に挑む。条件をクリアすれば土地が自分のものになるという(ホームステッド法)ので、たった1人で頑張る姿に、思わず声援を送りたくなる。結果は苦いものだったが、人々との出会いで得たものは大きく、彼女のこれからの人生を切り開く糧となる。

『2月1日早朝、ミャンマー最後の戦争が始まった。』フレデリック・ドゥボミ/脚本 ラウ・クォンシン/作画 ナンミャケーカイン/翻訳
 2021年2月の軍事クーデターにより独裁政治へ後戻りしたミャンマー。民主化を求めるミャンマーの民衆の抗議活動が始まる。絵の迫力がものすごい。

『夜の日記』ヴィーラ・ヒラナンダニ/著 山田文/訳 作品社 2024年
 インドとパキスタンが独立した時、今まで住んでいた土地から宗教が違うために国境を越えた土地に追いやられた人がいたという。こんな事実があったことを初めて知った。まるで今のパレスチナと同じことが起こったのだ。自分ではどうすることもできない大きな力の前に、人々が否応なく巻き込まれてしまう。今も世界で起きている悲劇がここでも。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下 アンディ・ウィアー/著 小野田和子/訳 早川文庫 2026年
 「ネタばれ禁止」がこのことだとしたら、それほど言うことかなあと思うけど、でも確かに知らずに読んだ方が楽しいかな。自分の置かれた状況を分析し推理していくさまはいかにも科学者らしくておもしろい。2人のコミュニケーションがずいぶんスムーズにいくし都合良すぎるけど、それだけ2人とも優秀だったし、特に1人は長い長い孤独の期間があったのだから、そりゃグイグイいくよね。最後の選択はそりゃそうするよね。ラストシーンにグッときた。映画もいつか見られたらいいな。

『子供たちの事件簿1〜3』仁木悦子/著 芸術出版社 2002年
『探偵三影潤全集1』仁木悦子/著 出版芸術社 2005年
『仁木悦子少年小説コレクション3』仁木悦子(大井三重子)/著 論創社 2013年
 子供たちが危険な目に遭うのはちょっと嫌だったので、探偵の三影潤が活躍する話の方が好き。そして大井三重子名義の童話がたくさん載っている『少年小説コレクション3』が1番好き。この人は江戸川乱歩賞を受賞したため、世間的にはミステリー作家仁木悦子としての認知度が高まったけど、この人本来の資質はむしろ童話作家大井三重子にあると思う。本人も「童話の方が大事」とインタビューで言ってるし、乱歩賞受賞後もミステリーと並行して童話も描き続けていた。

『新版 水曜日のクルト』大井三重子/著 偕成社 2009年(初版は東都書房より1961年刊行 偕成社版初版は1976年)
  大井三重子名義の本はこれ1冊しかないのは本当に惜しい。せめて『仁木悦子少年小説コレクション3』に収録してある童話をまとめて、「大井三恵子童話集」として出版してほしい。

『黒牢城』米澤穂信/著 角川文庫 2024年
  わたしは昔から黒田官兵衛が好きなので、「村重お前なあ!」となる。そのせいで荒木村重については裏切り者で卑怯者というイメージしかなかったけど、序盤はずいぶんかっこよくて驚いた。でも話が進むにつれいろいろ噛み合わなくなってきて、彼の持つ出自へのコンプレックスも見えてきて、彼が追い詰められていくさまがかわいそうになってきた。それぞれの武将たちが書き分けられていて面白いけど、女性が少ない!というよりおだし様しかいない。そのおだし様と村重の対峙は見ごたえあり。これも映画をいつか見てみたい。

『本と鍵の季節』『栞と嘘の季節』米澤穂信/著 集英社 2018年 2022年
  高校の図書委員の男子二人組の探偵話と思って借りて読んでみた。2人の距離が近すぎず、戯れあっているようで少し醒めた感じが、今風なのかな。わたしはもう少しわちゃわちゃしてる方が好きだけど。どうもちょっと暗いのだ。もう少し明るい方が好み。2人組だとどちらかが探偵役で頭のキレがよく、一方はちょっとドジっぽいのがよくあるパターンだけど、この2人はどちらも頭が切れる。そこは良い。

『BUTTER』柚木麻子/著 河出文庫 2026年
河出文庫からあらためて出版されたのを機に購入。以前から興味はあったがようやく読めた。なるほどおもしろい。食べ物の描写がものすごく上手い。そのせいでつい食べたくなってしまい、森永チョイスを買ってしまった。普段はマリーとムーンライトが我が家の定番常備菓子で、チョイスはたまに買うぐらいだったのに。娘は餅にバターつけて食べていた。恐るべし。


『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』黄惠偵/著 小島あつ子/訳
 映画「日常対話」の監督の著作。映画の中で描かれ切れなかったことも詳しく書いてあり、映画の補完としてとても読み応えがあった。父親のこと妹のこと、母親の恋人たちとか、映画で描ききれなかったことがより詳しくわかる。

『車夫1〜3』いとうみく/著 小峰書店 2015年 2016年 2018年
 人力車に初めて乗る客を通して、人力車の乗り心地と主人公の車夫の紹介になっていて、導入部はとても上手い。しかし主人公が車夫になった経緯が親が無責任すぎて腹が立つ。1巻は面白く読めたのだが、2、3巻になると淡白すぎるせいか少し物足りなく感じた。

『朔と新』いとうみく/著 講談社 2020年
 作者は母親というものに何か含むところがあるのだろうか。『車夫』の母親もなんだかなあだったけど、こちらはそれ以上でちょっと読んでて気分悪かった。ブラインドマラソンの伴走者で『車夫』の主人公が出てきた時は驚いた。そういえば『車夫3』で伴走者と知り合ったのはこの話の構想があったからか。

『それはわたしが外国人だから?日本の入管で起こっていること』安井菜津紀/著 金井真紀/絵・文 ヘウレーカ 2024年(改訂版が2026年6月に刊行されたが、こちらは初版)
  タイトル通り、日本の入管で起こっていることを4つの事例を挙げてわかりやすく説明している。金井さんの絵やルビもふってあり、子供にもわかるように工夫されている。

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン/著 小尾芙佐/訳 早川書房 2003年
自閉症の少年クリストファーの語りで全編進むので、少し戸惑うところがある。自閉症とは本に書いてあるので使っているが、今ならもっと違う言葉を使うのかもしれない。彼の心の動きを丁寧に追っているので、読んでると少し疲れてくる。しかしこれは彼ほどではなくても、自分を上手く表現できない幼い子や、気後れしてすぐに言葉が出ない大人など、誰にでも当てはまることなのではないかと思う。

『1945年のクリスマス』ベアテ・シロタ・ゴードン/著 柏書房 1995年
  副題に『日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』にあるように、彼女は憲法草案を書いた1人。残念ながら彼女が書いた草案はほとんどが削除されたそうだ。それが条文になっていれば、現在まで続く女性と子供の権利をめぐる戦いはこれほど厳しくなかっただろうに。

『天皇への敗北』國分功一郎/著 新潮選書 2026年
  「立憲主義」と「民主主義」のことを説明してあって、なるほどと思った。「いかなる権力も制限される」という原理と「民衆が権力を作り出す」政治体制とが組み合わさっているのが立憲民主主義であるという。民主的に決めたからといって何でも認められるわけではない。

ここを読むと、今国会で次々成立している法案は、数を頼みに政府が押し切っているもので、彼らは「立憲民主主義」がわかってないか、わかっていて無視しているのだろう。とんでもない政府だと暗澹たる気持ちになる

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