「さとうきび畑」について

「さとうきび畑」について

 リリアのコンサートがきっかけで「さとうきび畑」をしみじみと聴いているこの頃、この歌を初めて聴いた時のことを思い出している。正確には「聞こえてきた」のだが。
高校1年か2年の時だったので1969年か1970年頃。当時2階の2部屋のうち6畳か8畳間を兄と弟が使い、私はその隣の4畳半を使っていた。襖で仕切られていただけだったので、隣の音はお互いによく聞こえていた。きょうだいの中で1番音楽好きだった兄がよくレコードをかけていた。ジャンルはクラシックからポピュラー、フォーク、イージーリスニング等々、いろいろだった。おかげでいろいろな音楽をちょっとずつ聞きかじることができた。特にポール・モーリアはよく聞こえてきていた。そんな兄が当時ファンだったのが森山良子で、彼女の歌も時々聞こえてきていた。そんな中で印象に残ったのが「さとうきび畑」。当時はタイトル名も知らずに、ただ襖の向こうから流れてくる歌声だけを聞いていたのだが、最初は驚いた。何度聞いても「ざわわ ざわわ ざわわ」としか聞こえないのだ。それが何回も何回も繰り返している。「ざわわ」って?もしかしたら「沢は」って言ってるのかな?と思ったが、どう聞いても「ざわわ」なのだ。意味のある歌詞もあるのだが、すぐまた「ざわわ」に戻るので、もう「ざわわ」しか頭に入ってこなかった。ちゃんと兄に聞けばよかったのだろうけど、なんとなく聞かないままにきてしまった。(当時は兄とそれほど仲良くなかったから)
その歌が「さとうきび畑」であることを知ったのは、いつの頃かはっきり覚えていない。いろんな人が歌ってるし、いつのまにかたくさんの人に知られた反戦歌の名曲になっていた。
調べてみると、1969年に森山良子の「カレッジフォークアルバムNo.2」に収録されたのが、初めてのレコード化という(Wikipediaより)。時期的にわたしが聞いていたのはこのアルバムだったらしい。兄の部屋でこのアルバムは見た記憶はないのだが、同じ年に発売された「森山良子イン・ナッシュビル」は見た記憶がある。(もしかしたらこの歌のこと知りたくて兄の部屋にこっそり入ったのかな)この間兄に会った時このことを話したら、当時のレコードはまだ持ってると言ってたので、いつかもう一度聴く機会があるかもしれない。ただこの時の歌は全部通しての収録ではないかもしれない。全部で11連あり全部通して歌うと11分にもなるので、たいていは抜粋して歌われるらしい。


そんなふうにこの歌のことを思っていたら、昨日(9/24)と今日(9/25)の東京新聞に、この歌を初めて歌った田代美代子の記事が載っていた。「私の東京物語」という全10回の連載コラムの、第5回と6回分だ。確かにWikipediaでも最初に歌ったのは彼女だと言う記述があったのだが、田代美代子というのが意外だった。彼女は和田宏とマヒナスターズと組んで「愛して愛して愛しちゃったのよ」という、歌謡曲というかお座敷ソングっぽい歌を歌っていた歌手という認識だったから。確かテレビドラマにも出ていた。でもこのコラムの初回から読むと彼女は元々石井好子に師事したシャンソン歌手だったという。「さとうきび畑」の作者寺島尚彦が石井好子の後輩で、彼女のピアノ伴奏も務めていた。その縁だからなのか、1967年5月23日に田代美代子のコンサートで、完成から間もないこの歌が歌われたという。作者は「初演の日」という一文で「この歌は田代美代子さんの唇からこの世に出ました」と書いているという。素敵な言葉だな。この歌が生まれた経緯も書いてあって、このコラムが今このタイミングで読めるのが、なんか不思議な気がする。


そしてさらに、昨夜のNHKの音楽番組「SONGS」の出演が森山良子だったのに驚いた。なんというタイミング。昨夜は見逃したのだが、もしかしたら「さとうきび畑」も歌うかもという期待でNHKプラスで見た。番組内での歌唱はなかったけれど、ゲストの森山直太朗が選んだ「マイベストRYOKO」3曲の中の一曲として「さとうきび畑」が紹介されていた。初めて歌ったのが22歳の時で、その時は「自分のような戦争も知らないでのほほんと生きてきた人間が歌っていいのかと悩んだ」そうで、それが年月を経てある時(1990年頃)母親から「あなたには歌うべき歌があるでしょう」と言われたという。それがこの歌のことだったという。

同じようなことが田代美代子のコラムでもあった。「流行歌を歌うような歌手が反戦歌を歌うなんて」という声があって、それに対して彼女は「どちらの曲も私にとって大切な曲です」と言ったという。歌を差別するような発言は看過できないと。このコラムの中で、彼女が初めて歌った時から2年後に「森山良子さんがレコーディングし、じわじわ知られるようになった」「ジャンルにとらわれず、広くメッセージを伝え続けてほしい名曲」と書いている。



初演の田代美代子、初レコード化の森山良子、その他にもちあきなおみもカバーしているという。鮫島有美子も歌っていた。だからなんとなく女性が歌う歌という印象があったけど、「リリア音楽ホールで聴く日本の歌」コンサートの男性たちの歌唱もとても素晴らしい。ラストに1人ずつ「ざわわ」「ざわわ」「ざわわ」と歌いつぎ、合唱で「この悲しみは消えない」と歌い終わる。本当にジャンルにとらわれず、たくさんの人に歌い継がれていってほしい曲だ。

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